ずっと力を入れていた足が、自然と緩んだ。 車輪は空回りを続け、徐々にスピードを落としながらも、確実にそこへ近づいていく。 「……」 呼吸すら忘れて、そこを見ていた。 そこは、昨日、確かに朗が倒れた場所。 わたしが自転車を止めたところ。 はっきりと覚えてる、だってあの瞬間が目に焼き付いて離れないんだから。 そう、ここだ。 確かに同じ場所。 だけど、違う─── 歩道の脇にある、背の低い街路樹。 それを囲むようにあるレンガの上に腰かけて。 「やっと来た」 涼しげに笑う、きみがいるから。