あまり体格は良くないけれど、わたしよりも少し背の高い彼の瞳を、わたしは見上げる形になる。

まるで日に当たったことのないような肌とは対照的な黒い瞳は、遠い夜空みたいに、どこまでも透けてしまいそうなほどに澄みきっていた。



「……竹谷夏海(タケヤ ナツミ)。夏の海って書いて、なつみ」



唇が、自然とそう呟いていた。

二度と、口にすることも、呼ばれることもないと思っていた、わたしの名前だ。



「夏海。そうか、夏海……」


少年───朗は、確かめるようにわたしの名前を呟く。

慣れ親しんだ自分の名前が、なんだか妙に不思議な響きに聞こえた。



「よし、じゃあ行こうか。夏海」


そして朗は、わたしの手を引いたまま、階段へ続く扉を開ける。