朗をパトカーの後部座席に寝かせると、警察官のひとりが運転席に乗り込んだ。
立ちすくんだままその光景を見つめていると、もうひとりの警察官が、わたしの横に並んだ。
「彼のご家族が、彼のことを探していたんだ」
顔を上げると、彼もそっとわたしに目を向けて。
「きみは、一体……」
僅かに眉をひそめ、そうわたしに問う。
一体だれなんだ、朗の、何なのだ、と。
なにも言えなかった。
だって、そんなこと知らないから。
わたしはだれなんだ。
朗にとって、どういう存在なんだ。
そんなこと知らない。
どうだっていい。
だって理由なんて必要じゃなかった。
傍に居ることに理由がいるなら、名目がいるなら、わたしたちはきっと出会うことすらなかったんだろう。
出会ったのは偶然、一緒にいるのは成り行き。
それでも。
ただ彼がわたしを呼んで、笑ってくれれば。
朗の祈りに似た声を聞ける場所に、わたしが居られれば。
それだけで、よかったんだから。