「朗、海を見たことがないの?」
「ああ。写真でならあるんだけど」
「だから見たいんだ」
「うん」
朗が小さく笑う。
顔は見えないけど、なんとなくわかる。
今、笑ってるんだろうなって。
「青くて広くて、写真でだってあんなに綺麗だったんだ。本物は、どれだけすごいんだろうな」
向こうにある駅から、真っ赤な車体の電車が向かってくる。
それが横を過ぎるとき、ざあっと温い風が吹いた。
草の匂いがする、そう思ったら、「草の匂いがする」、朗が同じことを言ったので、少し笑った。
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