「この地図は、俺が知らない場所を教えてくれた。俺が知らなくても、それはちゃんと存在しているんだってこと。俺が、知らないだけってこと」
太陽の熱が額から汗を流させる。
けれどそれを、吹く風が乾かした。
「海は遠いだろ。俺たちの住んでる街からは見えないし、夏海が頑張って自転車を漕いでも、なかなか着かない」
おばあさんに洗濯してもらった制服のブラウスは、もう背中のあたりがべたべただ。
朝はあんなに爽やかで柔らかくて、着心地がよかったのに。
なんで制服のブラウスって、こうも汗を吸わないんだろう。
Tシャツに着替えたいなあ、もちろん、持ってないけど。
「だけど、遠くても、ちゃんと繋がってるんだって。それだけでなんか、嬉しかった」
朗は相変わらず汗ひとつ掻かず、涼しげに風に吹かれているんだろうか。
この季節に似合わない、分厚いカーデをなびかせて。