「何だよ」


驚きながら姉貴を見ると、いつの間にテーブルから取ったのかプリクラを手にしている。

そのプリクラはルウコと初デートした時に記念に撮ったものだ。


「ちょと、何!?この子アンタの彼女なの!?ウソでしょ!?」


騒いでいる姉貴からプリクラを奪い取る。


「彼女で悪いかよ」


「だって・・・冗談じゃないくらい美人じゃない、何でアンタと付き合ってるの!?おかしいでしょ」


「別におかしくありません」


ボクは棒読みで喋ってから指をドアに向ける。

出て行けという合図だ。


「この子、人を見る目がないのねぇ・・・」


姉貴はそう言いながら部屋を出て行った。




「さて・・・」


ボクは再びパソコンと本を見ながら対策を練る。


ボクが得た知識がルウコのためになるのか・・・・。


それはわからないけど、何か役に立つかもしれない。

柏木 流湖 様


今回はボクなりに真面目に手紙を書くつもりです。


まず、正直な感想・・・というか率直な気持ちとしてはショックでした。


それは、ルウコが病気を隠していた事、そしてルウコの病気の本質です。


ボクは医者でもないし、唯一の自慢は健康なところなので、治らない病気を抱えてると言われてもどうしてあげる事がルウコにとっていいのか、今考えています。


でもわかっています。


ボクがショックを受ける前、ルウコはもっと絶望的な気持ちだったんだな、どうにか治る方法があるかもしれないな、そういう絶望とかすかな希望を常にもっていたんだと思います。


ボクに出来る事、それは変わらずルウコの隣にいること。


少しでもルウコの病気を理解して万が一発作が起きたとしても冷静に対処出来るようになりたい。


だからボクなりに勉強はしています。


これはルウコを気遣うとか同情するとかではなくて。ボクが知りたいから。


少しでもルウコを理解したいから。


だから、苦しかったり、病気を思うと辛かったりしたら遠慮なく打ち明けて下さい。


そこまで心に余裕はないけど、ルウコの悩みを一緒に考える事はきっと出来るはずです。

ルウコが言葉に出さない限り、厳しいけどボクは「健康なルウコ」と判断して接します。


ルウコは心配かけないようにと隠そうとするけどやめてください。


ボクを好きだと思ってくれるなら、ボクをもっと信用して下さい。


ボクはルウコを信じます。ちゃんと自分の気持ちにウソをつかないで打ち明けてくれると信じます。


そして、神様も信じます。


医学が進めばきっと治るかもしれない、薬が効いて病状が少しでも緩和されるかもしれない。


神様がそうしてくれるかもしれない。


ボクは信じています。


だからあきらめないで下さい。


いつものそうに笑顔いっぱいのルウコに戻って下さい。


お願いします。



高柳 蒼

「どうしよう!!生で見れるなんて初めて!!」


ルウコは胸の前で手を合わせて感激そうに言った。


「あんまり無理すんなよ」


ボクはそんなルウコに自分が被っていたキャップを被せた。


「大丈夫よ、それに帽子くらいちゃんと持ってるもん」


ふくれながらボクにキャップを返すと夏っぽいハットを被った。


「お前らさ、喋ってるヒマあったらテント張るの手伝えよ」


幹太が文句を言いながら必死でテントを張っている。


「あー、悪い悪い」


ボクも笑いながら手伝う。


明日香はテント前に焼肉が出来るグリルを組み立てていた。


「明日香って男前ねー」


ルウコが感心して明日香を見ていると、明日香も幹太同様に文句を言った。


「ルウコ!あんたどこぞのお嬢様よ。黙ってみてないで手伝いなさいよ」





ボク達4人は約束していた夏フェスに来ている。

テントもグリルも完成して一段落。


明日香とルウコはタイムテーブルを見ながらどのバンドを見に行くか相談中。


ジュースを飲みながら


「時間近くてステージ違うバンドが2つあったら片方あきらめた方がいいぞ」


と幹太が言うと「えええええ!!」とブーイング。


「どれが見たいの?」


ボクは2人の目の前に座ってタイムテーブルを覗いた。


「コレとコレ」


ルウコが指差しているバンドのそれぞれのステージは歩いて10分以上。


「どうしても見たかったらダッシュするしかない・・・」


言いかけて口をつぐんでしまう。


ダッシュなんてルウコには無理な話だ。


そんなボクを見て察したようにルウコがニッコリ笑った。


「ダッシュは無理だからソウちゃんおんぶしてよ」


「はぁ!?」


「だって両方見たいんだもん」


「無理無理、おんぶしたら腰痛めるわ」


「どういう意味!?」


ボクらのやり取りを呆れて見ていた幹太が言った。


「まぁまぁ、そんな夫婦喧嘩みたいな事されても困るんですけど。こっちはフリーなんで」


「あたし彼氏いるもん」


明日香が即答した。

「とにかく!2コは厳しいから、1コ前半見るのあきらめた方がいいよ」


幹太の提案に2人共「仕方ないね」と妥協した。




「ソウちゃんと幹太くんはどうするの?」


ルウコが聞いてきてボクと幹太は顔を見合わせた。


「オレらは・・・コレ!!」


ボクが指差したのはメインステージよりも遥かに小さい屋根つきのステージ。

ここに出るアーティストはコアなファンが多いマイナーなバンドばかり。




「って事で行くわ!」


そう言って幹太もボクも羽織っていたシャツを脱いでタンクトップになる。

幹太は黒でボクはボーダー。



カーゴのハーフパンツのポケットにペットボトルを突っ込んでボクと幹太は走ってステージに向かった。

一通りそれぞれ見たかったアーティストを回っていたら、あっという間に夜になった。

ボク達は焼肉をしながらのんびり過ごしていた。


「楽しい?」


ボクが聞くとホルモンをモグモグさせながらルウコは笑顔でうなずいた。


ルウコとも何組かバンドを見ていたけど、結構遠くにいたとはいえ、そんなに騒いで大丈夫か?と心配になるほどキャーキャー大騒ぎしていた。


「すっごく楽しかった!幸せ!」


それを聞いてボクも連れて来てよかったと心から思える。


「ルウコちゃん、楽しいのはこれからだよ」


幹太がいった。


「これから?もう10時だよ」


腕時計を見ながらルウコが首を傾げた。


「一応、今日のタイムテーブルは終わったけど、小さいステージでシークレットライブがあるんだ。意外なアーティストがコラボしてたりして結構楽しいよ」


ボクが言うと、ルウコは目をキラキラさせた。


「へー!!すっごい楽しみ!ソウちゃん、一緒に見ようね」


「そうだな」


ボクらのやり取りを聞いて明日香がニコニコしている。


「ルウコ、よかったね。あたしは幹太とラブラブで見て回りますか!」


「明日香とラブラブはしたくないけどな」


幹太が言うと、明日香に頭を叩かれている。



今日は本当にきてよかったなと思った。
夜中、ルウコと手を繋いで歩いていると突然妙な事を聞かれた。


「ソウちゃんって思い出の曲ある?」


「思い出?」


「うん。この曲聴くと思い出すなーって思う時とか、曲とか」


ボクは考えてみた。

でも、好きな曲はいっぱいあるけどこれと言って思い出が深い曲はない。


「ない・・・かな?多分」


答えを聞くとルウコは嬉しそうに微笑んでいる。


「何で?」


「もしないなら今日、いっぱい見たでしょ?そのバンドの曲とか、今から見に行く曲とかが思い出になってくれたら嬉しいなって思ったの」


「いっぱいありすぎだな」


ボクは笑った。


「その中の曲で、1曲でも『これはルウコの曲』って思ってくれたりしたら幸せなんだよね」


「そんなの今日に限らずこれからいっぱい増えてくんじゃない?」


そう言ってもルウコは微笑むだけだった。

メインステージからかなり離れた小さなステージは、照明が薄暗く、後はキャンドルだけの明かりで幻想的な感じの作りになっていた。

明日も夜中までフェスはあって、朝日が昇る明後日の早朝に終了だけど、夜中のこのステージは今日限定のものだ。


「キレイだねー」


ルウコはステージを見て感嘆の声を上げた。

ステージを見ている人達も昼間のオールスタンディングな雰囲気と違い、これもこのステージだけのものだけど、木で作られたベンチがあちこちにあって、そこに座っていたり、地べたに座っていたりすごくゆったりしている。


ボク達はちょうどよく空いていたベンチに並んで腰を掛けた。


「誰が出てくるのかな」


「シークレットだからな、好きなアーティストだといいけど」


そう会話しているうちにワっと歓声が上がってステージに目を向けた。


ステージに出てきたのは、普段はメロコアっぽい早いテンポのロックバンドのギターボーカルだった。


「ソウちゃん!!ウソみたい!!」


ルウコがボクの背中をバンバン叩いた。

ボクもこのバンドが好きだけど、ルウコは「この人大好き、好みなの」というくらいに熱狂的なファンだ。


ギターボーカルはアコギを手にステージ上にあるイスに座った。


『こんな機会もこのフェスならではなんで、カバーと何曲かアコギバージョンでやりたいと思います』


この言葉に大きな拍手が一斉に上がった。