校舎を出るまでに何度「え!?あの2人付き合ってるの?」という声が聞こえただろう・・・。


(明日が恐ろしいな・・・)



ボクがどきまぎしているのに対して、ルウコは嬉しそうに笑っていた。


地下鉄に乗って、街中に着くとボクは緊張でヘトヘトになってしまった。


「なぁ、ちょっとマックで休憩しない?腹減ったし、喉渇いた」


ボクの提案に一瞬、本当に一瞬だけど、ルウコの表情が固くなった。


マックはイヤなのかな?


「いいよ。あたしも喉渇いてるし。入ろうか」


いつものルウコの表情に戻った。




ボクがてりやきとチーズバーガーのセットを頼んでいるのに対して、ルウコは店員に何かを聞いていた。


今日はボクが奢るつもりなのに、ルウコは「次回奢ってね」と違う店員の前へさっさと行ってしまった。


自分の注文を頼んで、ルウコのそばに行こうとするとルウコと店員の会話が聞こえてきた。


「・・・そうですか、それなら普通のハンバーガーが一番カロリーが低いんですね?」


ルウコが確認している。


「それと・・・烏龍茶でお願いします」


(カロリー気にしてるのかな?あんなに細いのに)


ボクは真剣に店員で確認しているルウコを何となく見ていた。

ハンバーガーを食べながらボクはルウコに聞いた。


「そんな細いのにカロリー気にするの?」


ボクの言葉にルウコは固まった。


「ルウコ?」


ハっとしたようにボクに笑顔を向けた。


「ちょっとね。気になるの。それだけだよ」


「ふーん」





この時のボクは全く気づかなかった。「ルウコの秘密」に。





「それよりさ、ソウちゃん」


ルウコは烏龍茶を飲んでから言った。


「んー?」


ポテトを食べながら返事をする。


「ソウちゃんってあたしの事好き?」


「グ・・・っ」


ポテトが喉に詰まってゲホゲホとむせてしまった。


「大丈夫?」


ルウコはちょっと笑って言った。


「だ、大丈夫・・・。直球でくるからビックリしただけ」


ボクの心臓はまた破裂しそうなくらいにバクバク鳴っている。

「ねぇ、どう思ってるの?」


飲み物を流し込んで落ち着いた頃にもう一度聞かれる。


「え?・・・どうだろう?あははは」


照れ隠しで笑って誤魔化す。


そんなボクを見てルウコはちょっと寂しそうだ。


(ここは、言うべきなんだろうな)



でも、ボクは自分の気持ちを言うのは苦手だ。


歴代の彼女にも「ソウに好かれてる気がしない」と言われた。




「まぁ、いいや。こうやって約束を守ってくれたし」


そう言うルウコに「違うって!」と慌てて言った。


「え?」


ボクはどうしようか迷ったけど、ボクだってルウコに気持ちはある。


「オレも、あの、えっと・・・ルウコと同じ気持ち・・・です」


ボクの、ボクなりの精一杯の言葉だ。


ルウコは口に手を当てて驚いている。


ボクはルウコの顔はほとんど見れなくて、代わりにルウコの手を握った。


「オレでよかったら、付き合ってください」



しばらく間があって、握った手を強く握り返してきた。


「あたし、ソウちゃん大好き!だからずっと手を離さないでいてね」


ルウコの冷たかった手から優しい温もりが伝わった気がした。
§§§§§§§§§§§§

奇妙な手紙から始まったボクとルウコの恋。



あの『柏木流湖』。



ボクの最初はそう思っていたけど、ルウコはごく普通の女の子。



ボクがどんどんルウコに惹かれていくのに対して、必ず沸き上がる『疑問』



ルウコは何かを隠してる。


人には、ボクにさえ言えない重要な何かを




§§§§§§§§§§§§
ルウコへ


やっぱり手紙は苦手です。


やっと、メールも解禁になったのに手紙を続ける意味がよくわからないけど、ルウコが本音や秘密は手紙に書いて、と言ったので書きます。



ボクはあんまり、好きとか言えません。



すげー苦手。



だから、ルウコはつまらないって思うかもしれません。



でも、ボクはルウコが好きで大事です。



それだけは覚えてて下さい。



えーと、あんまり短いとルウコは怒るから頑張って長く書きます。



あ、いつも部活が終わるのを待っててくれてるけど、つまんなくないですか?



外だし、今は夏だから暑いし、蚊に刺されてませんか?



それに、門限とかは大丈夫?


勝手なイメージでルウコには門限がありそうな感じがするから。


でも、たまに山下と見てたり喋ってたりするから大丈夫かな?



山下と仲いいもんな。



山下がいるから大丈夫って思ってるけど、早く帰りたい時は遠慮しないで帰って下さい。

いや、帰れって意味じゃないです。



無理してボクのペースに合わさなくていいって意味。



でも、ボクはルウコのペースに引きずられてる感じがするけど。



ルウコは怒ったら怖いし。


あ、嘘です、可愛いです!


やっと噂も落ち着いてきて、過ごしやすくなりました。


最初は、何でお前が柏木さんとってかなり突っ込まれたけど。



でも、ボクも不思議です。


優しいからって言ってくれるけど、どうしてボクなんだろう?



ま、いいや。



後、いつも図書室で何を読んでるですか?



分厚いあの本はなんですか?


必ず閉じてしまうからわからない。



気が向いたら教えて下さい。



あー、もう指が限界っす。


高柳 蒼

「あ、あれが柏木さんの彼氏だよ」



廊下を歩いていると、一日10回は耳に入るこのセリフ。



一緒にいる幹太は笑いを堪えている。



「あ、アイツ。ほら、サッカー部の、柏木さんの…」

「うるせぇ!!」


被せるように怒鳴りつけると噂をしていた奴らはビックリしている。



それを見て幹太は我慢出来なくなったみたいで爆笑した。



そんな幹太を冷ややかに見る。



「キレてもムダだよ。お前は『柏木さんの彼氏』なんだから。お前の肩書きなんだって」



「オレの名前、『柏木さんの彼氏』じゃなくて、高柳蒼っていうんだけど」


ボクはため息をついた。



わかってるんだ。ルウコと付き合うって事はこうなるだろうな、って。いくらバカでもわかってたんだけど…。



「もう一ヶ月たつんだからいい加減にしてほしいよ」


ボクの嘆きを幹太は「まあまあ」となだめた。

「いやぁ、それにしてもソウがルウコちゃんと付き合ってから部員のやる気がかなりアップしたよな」



いつの間にか「ルウコちゃん」と幹太は呼んでいる。


まぁ、ルウコもほとんど毎日部活を見に来てるから「幹太くん」と呼んでるけど。



「わかりやすい連中だよな。ルウコが見てるからってだけでさ」



ボクもうなずく。


いくらボクの彼女になったとはいえ、ルウコはあの『柏木さん』である事には変わりないんだから。



「でも、ソウは変わらないよな?張り切ってるワケでもないし。いつも通りのダルーイ感じ」


「幹太、失礼だぞ。オレは別にダルイなーってワケじゃなくて、体力温存法を考案して部活やってんだよ」


「はいはい。部長としては複雑ですけどね。事実、ソウがいないと困るし」


幹太はサッカー部の部長。
ウチの高校はまぁ、中の上くらいな実力だけど、幹太の実力は飛び抜けていると思う。クラブチームのユースからも声がかかっているけど、幹太は興味なし。


『オレはサッカーに人生捧げてるワケじゃないからね』と言っている。
そういうボクもサッカー命ってワケじゃないから人のこと言えないか。



「あ、幹太発見!!」


デカイ声と共に誰かが走ってくる。振り向いた時には幹太はタックルされていた。山下 明日香に。


「いってぇ!!明日香、何だよテメー!!」


涙目で幹太は明日香に文句を言っている。


「へへへー。幹太って超ウケる」


明日香はケタケタ笑っている。



「あら、ソウちゃん。いたの?存在感ないからわかんなかったよ」


ボクを見てニタっと笑う。


「存在感薄くてすいませんね」


ボクは明日香のほっぺたをギューっとつねった。


「いったぁい!!ちょっと、ルウコ!あんたの彼氏ひどいよ」


明日香より大分遅れて歩いてきたルウコに明日香がほっぺたをさすりながら文句を言ってる。


そんな明日香を見てルウコは笑っていた。



「ルウコ、大丈夫なのか?」


ボクが聞くと、ルウコはちょっと元気のない笑顔で「うん、平気」と言った。


ルウコは朝から調子が悪かったみたいで、朝『保健室で寝てる』とメールと来ていた。


今は昼休みの終わりだから、相当具合悪いんじゃないかと心配していた。


ボクが保健室に様子を見に行こうとしたら、明日香が「あたしが行くから」と言って断ってきた。


「ルウコちゃん風邪?」


やっと痛みが治まった幹太が聞く。


「うーん、貧血みたいな・・・そんな感じ」


ルウコの答えに何か歯切れが悪いのが気になる。


「幹太ぁ、あんた顔はいいのにモテないのわかるわ。女の子には具合悪くなる時があるんだよ、察しなさいよ」


明日香が笑いながら幹太の肩を叩く。幹太は「あ・・・」と言って真っ赤になった。


(それって・・・俗に言う「女の子の日」?)


ボクがルウコを見ると、ルウコは「ちょっと」と明日香に赤くなって文句を言っていた。