ソウちゃんへ


ソウちゃんに初めて手紙を書いてからもう3週間の時が経ちました。


書くまではほとんど会話もした事がなかったのに、今ではすごく仲良しになれました。ありがとう。


何だか周りにひやかされたりして迷惑してない?


ごめんね。


でも、それでも、ソウちゃんは嫌な顔しないで、あたしと接してくれてる。嬉しいです。



さて!



そんな優しいソウちゃんからの課題にお答えしようと思います。



随分悩んで、テレビの特集もネットでも調べまくってあたしが閃いた人は3人。



どうか、ソウちゃんの思う人でありますように…

まず、一人目はポルトガルのC.ロナウド。


この人は人気もあるけど、実力もあるから。


次は、ブラジルのカカ。


この人も超有名人なんだよね。すごいんでしょ?


最後は、あたしがすごく勉強して予想した人!


イングランドのジェラード!!!・・・って具体的にはよくわからないんだけど(笑)ミドルシュート?ってのがすごいんでしょ?


こんな感じのルウコ予想ですが、ソウちゃんのお気に入りの人いるかな?


いてほしいな。


あたしはソウちゃんの事、いっぱい知りたいの。そして、あたしの事もいっぱい知って欲しい。


ソウちゃんって実は女の子に人気あるんだよ。明日香が言ってた。


優しいから。後はちょっと天然な感じが可愛いんだって。


ソウちゃんが優しいって事はあたし知ってるよ。


だって、あたしが1人でお昼食べてるの知ってから、毎日図書室に来てくれてる。


「暑いから」とか「うるさいから」とか理由言ってるけど、あたしのために来てくれてる事、ちゃんとわかってるんだから。


そんな優しいソウちゃんが大好き。


これ、告白になっちゃうのかな?ラブレターになっちゃう?


でも、これ正直な気持ちなの。


ソウちゃん、あたしは友達でもいいよ。ソウちゃんが恥ずかしいんだったら、噂になってるのイヤだったら、あたし友達でもいい。


だから、お昼だけでも一緒にいてほしいな。


ワガママかな?


手紙を書く人をソウちゃんに決めたのは、ソウちゃんだったら普通に接してくれる、そう思ったからなの。


友達になってくれるって思った。


だから思い切ってソウちゃんに手紙を書いた。


でも、なぜ手紙じゃなきゃダメなのか、その理由はまだ言えない。


ごめんなさい。


それでも手紙のやり取りはしてほしい。


これもワガママになるのかな?


何だか今回の手紙はワガママばっかりになってるね。


でも、許してね?


あたしはソウちゃんが大好きだから、繋がっていたいから。


だからワガママに付き合ってくれないかな?


その代わり、あたしもソウちゃんのワガママいっぱい聞くからね!



課題も無事?提出したから、高柳先生(笑)の答えを楽しみに待ってます。


答えが合ってたら・・・、自分で言ったのにドキドキします。


一緒に帰ってくれるかな?お昼ずーっと一緒にいてくれるかな?


うわぁ、緊張してきちゃった!!



ソウちゃん、いつもありがとう。


ソウちゃんからの手紙、宝物なんだ。


楽しみに待ってます。



ルウコより

今日は朝練はなし。


下駄箱を注意深く見ると、星柄の封筒が奥に入っていた。


周りをキョロキョロしながら、素早く手紙をカバンに突っ込んだ。


HRまでそんなに時間がないけど・・・、手紙の内容が気になる。


ボクはHRをパスして図書室へ走った。




手紙を読んでため息をついた。


イヤ、悪いため息じゃないから!!ドキドキしてるため息です!!


「当たっちゃった・・・」


ボクが出した「好きなサッカー選手」の課題。


C.ロナウドとカカは違うけど『ジェラード』の名前が入っている。


ジャラードはボクのTOP3に入るくらい好きな選手。


約束通り手を繋いで帰るのか?


昼は別にいいんだ。


ボクがルウコと話たくて勝手に図書室に通ってるんだから。


それに・・・


『大好き』って・・・・。


自分でもハッキリわかるくらいに顔が赤くなる。


この『大好き』はあの大好きでいいのか?


友達だから大好きじゃなくて、異性だから大好きって事?


そういう事?

「うわー!!ヤバイ!!」


ボクは手紙を握り締めて頭を抱えた。


だって、ボクも実は段々ルウコに惹かれている。


美人だからってワケじゃない。


いや、美人なのも好きなんだけど。


そうじゃなくて、ルウコのちょっと子供っぽい仕草とか、そうかと思えば大人みたいに喋る声とか・・・


「ソウちゃん」って呼ぶ、あの笑顔。




自分でも尋常じゃないくらいに心臓が高鳴っているのがわかる。


HRが終わるチャイムが鳴った。


それは「教室に戻ってルウコに返事をしろ」と言われているような合図。



「普通に出来るかな・・・」


またため息が出る。


でも、ボクだってルウコと手を繋ぎたい。


「よし!」


意を決して教室へ向かう。



教室に入るとボクの苦手科目の古文が始まっていた。


「高柳、寝坊か?」


古文の教師がボクをチラっと見た。


「まぁ、そんなモンです」


ボクは適当に返事をして席につこうとしたけど・・・


(・・・!?)


バッチリ、ルウコと目が合ってしまった。


ルウコはちょっと笑顔でボクを見ている。


思わず目を逸らせてしまった。


教壇のそばに突っ立ているボクを教師がジロジロと見た。


「お前、大丈夫か?熱あるのか?顔赤いぞ」


「ふぇ!?」


ビックリして返した返事は日本語か?と疑うくらい変なものになった。


クラス中が一斉に笑い出す。


「高柳?」


教師がもう一度ボクを呼んだ。


「あ、あぁ大丈夫っす。今のはふざけただけなんで・・・」


しどろもどろに返事を返すと、また教室が爆笑する。


「まぁ、お前はいっつも寝てるからな。具合悪いならいつも通り寝てれば治るだろ」


そんな教師の嫌味を聞きながら席に座った。

(オレはこんなにショボイ人間だったのか!?)


席に座ったものの、後ろは一切見れなかった。


バクバクする心臓が止まる事は永遠にない気がする。



(あれ?今まで女の子と付き合う時ってどうしてたっけ?)



全然、思い出せない!てよりもルウコは今までの子とどエライ違いだ。



いや、それは今までの子に失礼か?



でも、相手はあの『柏木 流湖』だぞ!!


みんなの柏木さんなんだぞ!



背中に視線が刺さる感じがする。


ルウコはボクを見てる。目を逸らせてしまったのを気にしてるのか?


頭を掻き毟った。



(もう、どうにでもなれ!!)

ボクはチラっと後ろを見た。


やっぱりルウコがあのデカイ目でボクをジっと見てる。


「ソウちゃん?」


小声でちょっと心配そうに言った。


ボクとルウコの席は窓側。ボク達の席の間にはいい感じにカーテンが揺れている。


「・・・左手」


ボクも小声で言った。


「え?」


「左手、見えないように前に出して」


ボクの言ってる意味を理解出来ないみたいだけど、ルウコは遠慮がちに左手を下から差し出した。


ボクはその左手を握った。ルウコの手はもう夏だってのに冷たい。


「ソウちゃん・・・」


ルウコのちょっとビックリした声が聞こえた。


「課題、正解だったから。ジェラード、正解」


ルウコはボクの手を握り返してきた。


「やった、当たった」


嬉しそうな小さな声が聞こえる。


「今日、部活休むからさ、帰り・・・一緒に帰る?」


言っただけでボクの顔はまた赤くなる。


「うん!」


ルウコの嬉しそうな声。もう一度しっかりと手を握り返してきた。


ボク達は授業中ずっと手を繋いでいた。

放課後、部室に向かおうとしている幹太に声を掛けた。


「あのさ、オレ今日は部活休むから顧問に言っておいて」


そう言うと、幹太はニヤーっと笑った。


「柏木さんとデートっすか?」


「は?」


ギョっとしてしまった。鈍い幹太になぜそんな事がわかるんだ!?


「なーんか、最近、お前と柏木さんって仲いいよな?」


「別に、普通だよ」


そんなボクの顔を覗き込んで、「そうかなぁ?」とニヤニヤしている。


「オレ見ちゃったんだよねー、昼休みに図書室でお前らが仲良さそうに昼飯食ってるの。しかも!なんと!1回だけじゃねーし」


「勝手に覗くなよ!」


ボクは赤くなりながら怒った。


「いやいや、まさか、あの『柏木 流湖』が選ぶ男がお前だなんてな」


ボクが否定もしないでただ赤くなっていると、幹太はマジマジと見た。


「・・・冗談で言ってたんだけど、マジなのか?」


どうやら幹太はただからかっていたみたいだった。


幹太の事はボクは一番信用している。


なんてたって、小学校の時の少年サッカー時代からの長い付き合いだ。


それに幹太は人の悪口を言わないし、口も堅くてボクをよく理解している。


(幹太になら・・・、手紙の事以外は言ってもいいかもしれない)


そう思って、今までの経緯を簡単に説明した。

手紙の部分は「メール」って事にして、内容は特には伝えないように。