高嶺の花。
みんなに憧れる対象。
多分、ルウコはそんな事、望んでないんだろうな。
みんなと同じに扱ってほしい、そう願っているのに。
美人ってのも大変なんだな、そう思った。
柏木 流湖 様
約束通り、手紙書きます。
手紙の紙なんてもってないからルーズリーフで悪い。
で、何を書けばいいんだ?
ルウコがくれた手紙に、ボクの事を細かく書いてたから、ボクから見たルウコを書けばいいですか?
ボクに限らずルウコはみんなに美人で完璧だと思われてると思います。
この間、自習の時に初めてちゃんとルウコと喋って思ったのが、ルウコも普通の女の子なんだなって事です。
前までは、あんまり表情が変わるとか思わなかったです。
でも、話してみると、そのデカイ目がクルクル変わって、普通だな〜って思いました。
だから、ルウコから声をかければ友達はいっぱい出来ると思います。
ルウコが何でボクを選んで手紙を書いたかはわからんけど、友達がほしいなら、ボクと友達になりますか?
嫌なら別にいいですよ!嫌ならね!
ボクはルウコと喋って友達になりたいって思いました。
……………
後、何を書けばいいですか?
あ、MFはスゲー選手がいっぱいいるけど、ボクはアルゼンチン代表のメッシが好きです。
メッシはFW、点を取るのが仕事です。
ちゃんとメッシの勉強をしておいて下さい。
字なんて書かないから指が痛いです。
やっぱメールの方が楽。
でもルウコが手紙がいいなら頑張って書きます。
ボクに送ってきた理由が知りたいし。
こんな手紙が面白いか?
今度、お金を払うので手紙の紙を買ってきて下さい。
今日、購買のパンが値上がりしていたぞ。気を付けろよ。
高柳 蒼
ルーズリーフを適当に折って、ルウコの下駄箱の奥へ突っ込んだ。
すぐさま、周りに誰かいないか確認。
朝練前だから誰もいない。
安堵のため息をつく。
(こんなスリルを毎回味わうのか!?)
万が一、誰かが見ていたという事を想像してみる。
『高柳が柏木さんにラブレター出してたぞ、今時ラブレターだって、ダセぇ(笑)』
うわぁ…最悪だ。
ただのキモイ男、またはイタイ男だ。
「勘弁してくれよ…」
何でわざわざ手紙なんだよ。
メールの方が数倍楽じゃん。
でも、何故かルウコの願いをきいてやりたくなる。
美人だとか、そういう感情じゃなくて、ただ寂しいだろうな、って思うし…
「ソウ?朝練始まるぞ」
後ろから声をかけられて、ビクッとなった。
ゲームシャツを着た幹太がいた。
「あ…、今行くわ」
ボクは不自然な笑顔で言った。
「何か具合悪いのか?顔色、変だけど」
幹太は首を傾げている。
「え!?何だよ、オレ元気だよ!!」
ボクは幹太にジャンプしてみせたり、幹太が持っていたボールをリフティングしてみせた。
幹太はそんなボクを怪訝そうに見てたけど、
「ま、いいや。早く行こうぜ」
と先に歩いて行ってしまった。
幹太は単純で鈍いから助かる。
ボクはもう一度、ルウコの下駄箱を見てから朝練に向かった。
HRが始まって、眠い目をこすりながらも意識は後ろの席に集中していた。
カサカサ紙の音が聞こえるだけでも、口から心臓が出そうになる。
(見てるのか…?)
怖くて後ろを振り向けない。
よし、寝たフリをしよう!そう決めて、机に突っ伏そうとしたら…
トントン、と背中を叩かれた。
恐る恐る振り返ると、ルウコが満面の笑みでボクを見ていた。
「ソウちゃん、おはよう」
「あ、うん。おはよう」
ぎこちなく返事をした。
そんなボクにルウコはルーズリーフを見せた。
ボクが書いた手紙だ。
「ありがとう。すっごい嬉しい」
笑顔で言うルウコに、ボクは焦って言った。
「ば…っ、お前、ルウコ!何やってんだよ、恥ずかしいからしまっとけよ!」
ルウコはキョトンとボクを見てる。
そして…
ボクは自分の状況を確認した。
焦りすぎのボクは思わず立ち上がっていて、ボクの声はクラスに響くくらいデカイ。
みんながボクを見ている。
そんなボクに担任が言った。
「高柳、柏木と仲良くしたいのはわかるが、もう少し小さい声で話してくれないか?」
一気にクラス中が騒がしくなった。
「今、ルウコって呼んでた」とか「どういう関係?」とか。
顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
慌てて席に座ると、クラス1調子がいい男が言った。
「ソウ、お前、柏木さんと付き合ってるのか?」
冷やかしてるけど、確かコイツもルウコファンの一人だった。
「うるせーな、違うよ、バーカ」
ボクがそう言うと、ルウコがボクの腕を掴んだ。
「ソウちゃんとあたし、友達なの。すっごい仲いいの。あたし、ソウちゃん大好きだから」
はい!?
ルウコはボクを見てニッコリ笑う。
唖然とするボクとは反対にクラス中が騒然となった。
休み時間になって、ボクが廊下に出ると周りがみんな注目している。
まぁ、そうでしょうね。
あの『柏木 流湖』と噂になるんだから。
一緒にいた幹太も呆れている。
「すごいな、柏木さんの彼氏かもしれないってだけでこの騒ぎ」
「だから、何度も言うけどオレとルウコはそんなんじゃないから」
周りに聞こえるくらいハッキリ言った。
「まぁ…友達?だっけ。でも『大好きなソウちゃん』なんだよな」
幹太の含み笑いにため息をつく。
「だから、友達!メル友みたいなもんだって」
いくら相方の幹太にも手紙の話は出来なかった。
恥ずかしいし、それに…ルウコの意図がわからないにしろ、これはルウコも隠しておきたいんじゃないか、そう思ったから。
下駄箱の手紙。
それは大きな秘密が隠されてる、そんな気がするから。
どこに行っても周りが騒がしくてうっとおしいから図書室に行く事にした。
昼飯のパンを持って図書室に入ると人はほとんどいなくて安心する。
どこに座ろうか…周りをキョロキョロしていると、日当たりがいい窓側にルウコがいた。
弁当箱を横に置いて、何かを真剣に読んでいた。
「何、読んでるんだ?」
ボクが声をかけると、ルウコはビックリして顔を上げた。
「あ…ソウちゃん」
読んでいた分厚い本をパタンと閉じて脇に置いた。
(何の本だろう?)
わかっているのは、ボクには無縁そうな難しそうな本だって事だ。
ボクはルウコの向かえに座ってパンを口に入れた。
ルウコはボクを見て言った。
「ソウちゃん、パン…5コも食べるの?」
「え?いつもそうだけど?ルウコも食いたいなら1コやるよ」
クリームパンを渡そうとすると、ルウコは笑った。
「あたしはお弁当あるから大丈夫だよ」
「そうか?で、ルウコは一人で飯食ってるの?」
「うん。明日香は彼氏とご飯だから。いつもここで食べてるの」
ルウコも弁当を出して食べ始めた。
「ふーん。つまんなくない?」
ボクの疑問に寂しく笑っている。
「まあ、いつもはそうだけど、今日はソウちゃんがいるから嬉しいよ」
ボクを見てニッコリする。
(その笑顔は犯罪だぞ)
心臓がドキドキする。