柏木 流湖 様



柏木流湖に手紙を書くのは今日で最後です。


今まで何通、柏木流湖に手紙を書いたんだろう?


多分、100通は超えていると思います。


でも、便箋がなくなっても必ずルウコが買ってくるのは青い便箋。


今まで色んな青い便箋に書いたなー。


でも、やっぱり一番初めに書いたルーズリーフがボクの記憶に一番濃く残っています。


あの時は手紙なんて書いた事がないから、ヤベーって焦ったし、何書いていいかもさっぱりわからなかった。


それに、あの「柏木流湖」に手紙を書くなんて、と思っていたから(笑)


まぁ、不思議なもんで人間には「慣れ」という機能が備わっているみたいだから、ボクも手紙を書くことにすっかり慣れてしまいました。


昔はペンが進むのが遅かったのに、今はサラサラという表現がピッタリなペースで書いています。


ルウコが昔、「手紙が好きなの」と言っていた気持ちが今わかります。


ボクも手紙が好きになりました。


メールの時代、携帯もパソコンの様に進化していく中、文字離れしている現代にこの古風な「手紙」というものがあってよかったと思います。


『You are the meaning that I live for』


まだ17歳だったボクが送ったこの言葉をルウコはまだ覚えているだろうか?


ボクは覚えています。


ルウコに指輪を送ろうと思った時、大体指輪の後ろって文字が刻めるって姉貴から聞いていて、辞書を引っ張って考えた言葉だから。


あの頃とボクの気持ちは何も変わっていません。


ルウコ、キミと生きてく。


そして、ルウコはボクの生きている意味だから。













今日で柏木流湖とはお別れです。


明日からは「高柳流湖」が始まります。



ボク達の道はまだまだ続いているから。





高柳 蒼より

「まさかこんなに早く結婚するなんて思わなかったな」


スーツ姿の幹太が『新郎控え室』にいるボクに向かって言った。


「まぁ・・・デキ婚だからな」


タバコに火をつけてボクは言った。

ルウコの目の前では吸えない。「タバコはベランダよ!」そう言われるし。


「オレらまだ22だぞ?よく決めたよな」


幹太は浪人したからまだ大学生。

ミサともまだ付き合っている。そのミサは明日香と2人でルウコのウエディングドレス姿を見に行っている。


「別に年齢なんて関係ねーよ。子供が出来た、それはオレもルウコも望んでいたからな。子作りしてたワケじゃねーけどさ」


「ルウコちゃんの体調はどうなんだ?妊娠して大丈夫なのか?」


「うん・・・、前みたいにキツイ薬は飲めないから貧血の発作はたまにあるけど大丈夫だよ。医者も特に問題はないって言ってたからな」


ボクがタバコをもみ消すと、ドアが開いて「準備お願いします」と声をかけられた。


「あ」と幹太が言った。


「え?」


「結婚おめでとう!」


ボクと幹太は腕をガシっと絡ませた。

22歳。


ボクは進路を大学に行こうか悩んだけど、親父の美容室の跡継ぎとして美容師の専門学校に進んだ。

親の後を継ぐ。これはちゃんと考えてるけど、普通のサラリーマンだったら、いつルウコが倒れるかわからないから無理だと判断したのもある。

それにボクにはサラリーマンはあんまり向いていないと思うし。

自分の家の店にいるなら結構何があっても対応出来る、そう思った。



ルウコは4年生の大学に進んだけど、今回の妊娠で退学する事になった。

「休学して復帰してもいいんじゃないか?」

ボクの親もルウコの親もそう言ったけど、ルウコは「子供との生活が大事」と言って退学届をさっさと出してしまった。



ボクの安月給で食って行くことは出来てもルウコの病院代までは回らないから結局は親の援助が必要だ。

早く一人前にならないといけないと思う。



「ソウちゃん」


歩いていると声を掛けられ振り向くと、高校生時代のルウコにそっくりなルミが立っていた。ルミももう高1だ。

ルミももしかすると「あの柏木さん」なのかもな。


「どうした?」


ボクが聞くと、急に笑い出した。


「だって、お姉ちゃんのヘアメイク、ソウちゃんパパがしてるんだもん。新郎のお父さんなのにおかしいよね」



今日のヘアメイクは親父が自ら張り切って「やる」と言い張った。

ルウコは「ソウちゃんパパいいの?」と大喜びだったけど。



「おかしな感じになってない?」


ボクが聞くとルミは首を振った。


「それがお姉ちゃん、すっごくキレイになってるの。ソウちゃんパパすごいよねー。あ、ルミの時はソウちゃんやってよね」


「そうだな」


ボクも笑って答えた。



結婚式が始まってバージンロードで待っているとドアが開いて、ルウコとルウコの父親が並んで立っていた。


周りがザワつくくらいルウコはキレイだった。


静かにゆっくりと歩いてくるのをボクはジっと見ていた。

ルウコはときおり小声で父親と何か話しているようで、笑顔になったり、少し涙目になっていたりしている。


ボクの前にきて、ルウコの父親がボクに言った。


「本当はやりたくないんだからな」


ボクはその言葉を聞いて笑ってしまった。

ルウコの妊娠に真っ先に喜んだのはこの人じゃないか。


「わかってますよ」


笑いをかみ殺してボクが答えると「どうだかな」と言って、ルウコをボクに引き渡した。



ルウコはボクを見上げるとニッコリ笑った。

それからちょっと眉間に皺を寄せて言った。


「またお腹大きくなったみたいなの。ちょっとキツイのよドレス」


「え?我慢できる?」


「そんなに目立つほどじゃないし、我慢できる程度だから平気」


ボクの腕に腕を絡ませて神父の所へ行く途中、ルウコは呟いた。


「ソウちゃん・・・、幸せになろうね。今よりもっともっと」


「うん」


ボクはルウコに微笑んだ。

結婚式が何とか終わって、ボクとルウコは2人で住むマンヨンで膨大にある写真を眺めていた。


「ねぇ、飾るのコレにしようよ」


ルウコが選んだ写真はボクとルウコが顔を見合わせて笑っている写真。


「うん、いいんじゃない?」


「後コレも」


数枚手渡されて見て見ると、ボクが幹太にほっぺたをつねられている写真と、明日香に脳天をチョップされている写真だった。


「何だよコレ!?絶対イヤだからな!!」


「えー」不満な声が返ってくる。


「じゃあ、コレも飾らなきゃだな」


それはルウコがドレスの躓いて転びそうにそうになっている写真。

あの時は子供もいるし、どうにか受け止める事が出来たけど、いざ写真にになると結構面白かった。


「イヤよ!絶対ヤダ」


結局、一番初めに選んだ写真とルウコがウエディングドレスを着て微笑んでいる写真、それに幹太とミサと明日香と一緒に写っている写真を選んだ。


ボクが写真立てにそれを並べていると、「ソウちゃん」とルウコが声を掛けてきた。


「大事な話があるの。座ってくれない?」


ルウコの真剣さにボクは黙って、ソファに座った。

「そろそろ、手紙の話をしなきゃいけないと思って」


ルウコの言葉は意外だった。


「手紙の話?どういう意味?」


「・・・あたしが最初に手紙を書いた日からずっと決めていた事があったの」


「うん」


「何でこの時代に手紙なんだって思うかもしれなかったけど理由があるのよ」


ルウコは愛おしそうにお腹をさすった。


「・・・まだ、この子が生まれて元気に育つまでは生きていたいと思う。ずっと、でもあたしがどうなるかは今でもわからない」


「だかたね、もしあたしの命が終わってしまったら・・・ソウちゃんからの手紙を棺に入れて一緒に火葬してほしい」


「え・・・?」


ボクが絶句していてもツウコは続けた。


「でもあたしの手紙は捨てないで。いつかこの子が大きくなったら読んであげてほしいの。あたしが幸せだった事わかってほしい」


「そんな事、急に言うなよ」


「急にじゃないわ。17歳からずっと思ってた事だもん」



「・・・高1の時、部活で元気に走り回って楽しそうに笑っているソウちゃんを見かけてからあたしの視界にはソウちゃんでいっぱいになった。気がついたら恋をしていたの。廊下を通り過ぎる時なんてドキドキしたわ。・・・でも、話しかける勇気なんてあたしにはなかった」


ルウコは笑顔でボクに話し出した。


「その時のあたしは、病気って事実に押し潰されそうだった。ソウちゃんと話かしたい、そう思ったけど病気なあたしがいいのかなって思ってた。でも、奇跡的に同じクラスになって、席が後ろになった時初めて神様っているのかな?って思ったの。大好きなソウちゃんを見てるだけで幸せだった。」


「ルウコ・・・」


「でも、あたしってワガママに出来てるのよ。病気って事よりも何よりもソウちゃんをあたしだけもモノにしたかった。ソウちゃんの笑顔があたしだけに向けられていたらどんなに幸せだろうって・・・。だからこっそり下駄箱に手紙を出した」


クスクスと楽しそうに笑っている。


「まさか、返事がくるなんて思わなかった。ただ、ソウちゃんの声で『ルウコ』って呼んでほしかったの。それが今日まで一緒にいれて、まさかお嫁さんになれるなんて・・・そして、ソウちゃんとの間に子供が出来るなんて・・・、あたしって幸せすぎるかも」


「それは、オレだって思ったよ。まさか「柏木流湖」がオレの彼女になって、そんで今はオレの奥さんになってる。オレの方がルウコに幸せにしてもらったんだよ」


ルウコは首を振った。


「ソウちゃん、ソウちゃんがあたしを幸せに、生きていたいって希望をくれたんだよ。ありがとう」

テーブルにはボクらの結婚式の写真が埋め尽くすくらいに散らばっている。

ルウコはそれを愛おしそうに眺めながらまた話始めてた。


「だからね、あたしが生きている意味、存在理由はソウちゃんなの。それはこれからも変わらないよ。・・・でも、あたしにはリミットがある。お婆ちゃんになるまで・・・、ううん。この子に『ママ』って呼ばれるまで生きていたい。でもね、現実は変わらないから、ソウちゃん、あたしが死んでしまったら棺にお花なんていらない。ソウちゃんが書いてくれて青い便箋の手紙いっぱいに埋め尽くされて逝きたいの。ソウちゃんからの手紙、持っていってもいい?」


「そんな・・・オレ達これからじゃん。子供だって生まれるし未来はずーっと先まであるんだぞ。今からそんな悲しい事言わないでくれよ」




ボクはなさけないけど泣きそうになった。

鼻の奥がツンとする感覚と、喉がヒリヒリする。


ルウコはたった17歳からそんな事を考えていたのか?

それって切な過ぎるはないか。

あの頃のボクらは今よりずっと子供で、ルウコの病気の事を考えたら、

『今がよければはいい』とは思わなかったけど、それでも普通の高校生として

過ごしてきた。

泣いたり笑ったり怒ったり・・・。


そんな頃からルウコはそんな事を考えていたなんて・・・。




「ソウちゃん、あたしはそう簡単に死ぬつもりないからね。だから未来はまだまだ続くんだよ」


ルウコが笑顔いっぱいで言った。