ボクの腕枕でスースーと寝息を立てて寝ているルウコを見ていると幸せってこんな感じかな?と思った。



学校一のモテ女、柏木 流湖の初体験は、

「キャア!」とか「痛い!」の連発で、とても清楚なイメージとは程遠い感じ。


何か発作とか起こしたらどうしようかと心配だったけど、規則的な寝息を立てているから大丈夫みたいだ。



ボクはルウコが本当に大事で大好きで…でもまだガキのボクには『愛してる』という感情がよくわからないけど、近いものはある。



これから何年もずっとルウコがそばで笑ってくれていたら幸せだな。



………………。



『いずれはこの病気で死ぬのよ。みんなより早くね』


病室でルウコが口にした言葉を思い出した。



その確定されない不安定な未来って何だろう?


何で今、幸せだって思うのにこんな事を思い出す?



何だったっけ?


『幸福と絶望は紙一重なんだ』


これは、ルウコが好きなバンドの曲の歌詞にあった言葉。


フェスでルウコが涙をボロボロ流しながら感動していたあのギターボーカルが書いた歌詞。



幸福と絶望は紙一重…


今のボクの気持ちはそれに近いかもしれない。

ルウコへ


手紙を書くのも初めてだったけど、郵送するのも初めてです。


子供の頃、年賀状を書いたくらいです。


夏休みももうすぐ終わり。


早かったけど、楽しかったな。


ルウコと色んな所に行けたし、フェスに行って、海で遊んで、買い物して、泊まりに行って・・・。


部活があったから毎日会えたわけじゃないけど、ルウコと思い出がいっぱい出来ました。


ルウコはいつも手紙でボクに「ありがとう」と書いているけど、ボクもルウコにありがとうと思う事がたくさんあります。


でも、ボクのありがとうはルウコの悲しい思い出作りじゃなくて、ちゃんと未来がある。


ボクはルウコとこれからもずっと一緒にいたいから。


病気に勝手に未来を決められたくありません。

ルウコがボクといる事で、病気だからって何でもあきらめてきて今までを変えてくれたらボクは嬉しいです。


ボク達はまだ17歳で老いて死んでしまうまで時間は充分あるから。


だからあきらめないで今の時間を大事にして、病気とはその都度向き合って頑張ってほしい。


ボクからのお願いです。



夏休み、最後の週の月曜日OKです。


うちの家族も犬も楽しみにしているみたいです。


騒がしい家なんでビックリしないで下さい。


では。



高柳 蒼

ルウコがボクの家に泊まりにくる。



朝から母親はバタバタと滅多に作らないお菓子なんて作り出すし、夏休み中彼氏の所に入り浸っていた姉貴まで帰ってきていて呆れてしまった。



「別に普通にしてりゃいいんじゃねーの?」


ソファに座りながらボクが言うと、姉貴が「バカ!」と怒鳴った。


「アンタ、あんな恐ろしいくらい美人な子が泊まりにくるのよ!今までのアンタの彼女が遊びに来てたのなんて比べ物にならないの!変な家族だって思われたくないじゃない!」


「・・・それ、今までのオレの彼女にかなり失礼だと思うけど」


「別れてんだからどうでもいいのよ!」



ボクと姉貴のやり取りを無視して母親が割り込んできた。


「ソウ!やっぱりケーキとかでいいかしら?アップルパイと悩んでいるのよ」


「一番カロリー低いのどれ?」


ボクの質問にキョトンとしている。


「別に作らなくてもいいけど、作るならカロリー低いのにして」


「え?ダイエット中なの?」


母親も姉貴も不思議そうにボクを見ている。

一応、簡単にだけは説明しておくか。


「彼女、高カロリーのものあんまり食べれない身体なんだよ。多分、薬飲むから大丈夫だと思うけど。一応、そんな感じだから」


「どういう事?」


姉貴が色々聞いてこようとしたのを母親が制した。


「了解。低カロリーね」


そう言ってニッコリ笑った。



ルウコが来る、それだけで高柳家は大騒ぎだ。


「お邪魔します」



玄関でルウコが頭を下げると、姉貴も母親もニコニコしていた。


「いらっしゃい、ルウコちゃん。入って入って」


ボクが何か言う前に姉貴がルウコの腕をグイグイ引っ張ってリビングに連れて行ってしまった。


「あ、あの・・・これ、お菓子を・・・」


ルウコが紙袋を手渡そうとしていても、「とりあえず入ってからね」とさっさと行ってしまった。

ルウコと目が合ったボクは苦笑いをした。


ボクの隣にいた母親がボクの背中をバンと叩いた。


「ビックリするくらい美人でしょ!離すんじゃないわよ」


ニヤっと笑ってからリビングに戻って行った。


犬達までルウコの周りに群がりながら行ってしまう。



(充分、変な家族だと思われてるぞ)


ボクはため息をついてリビングに向かった。

「あたし、高柳瑠璃。ソウの4コ上の姉です」


ソファに座って母親が出してきたお茶を飲むと、姉貴が自己紹介をする。


「はじめまして。柏木流湖です」


ルウコはニッコリと笑った。そして、


「瑠璃さん・・・。お姉さんもお名前が色なんですね」


と言った。


「え?あぁ、そうなのよね。」


「ソウちゃんが、蒼で、お姉さんは瑠璃色。ステキですね」


「ソウちゃん?こんなのに「ちゃん」なんて付けなくてもいいのに」


姉貴がガハハと笑う。

ルウコと並ぶと同じ女かよ、と思ってしまう。



「てかさ、もういい?」


ボクが言うと、姉貴は「あたしはルウコちゃんと話をしてるのよ」と文句を言った。


「後でゆっくり話せばいいだろ?ルウコ、オレの部屋コッチ」


ペットボトルのお茶を冷蔵庫から出して、ボクはルウコに手招きをした。


ルウコは慌てて「後で」と頭を下げてボクについてきた。

部屋に入ると「緊張したぁ」とルウコがため息をついた。

それからボクの部屋をキョロキョロ見ている。



「座れば?」


ボクがソファに座ると、少し笑って隣にちょこんと並んで座る。


「男の子の家って初めて。ソウちゃんの部屋ってシンプルなのね」


まだキョロキョロしながら珍しそうに言った。


「あんまり無駄なもの置くの好きじゃないんだ」


「へー、あたしの部屋なんてお母さんが少女趣味だからスゴイわよ。ヒラヒラにピンクばっかり」


「服装とはエライ違いだな」


「多分、子供の頃からフリフリの服着せられてたからその反動よね」


そう言ってからルウコはクスクス笑い出した。


「どうしたの?」


「ソウちゃんのお姉さん、瑠璃さん。やっぱりソウちゃんと顔そっくりだった」


「え!?オレ、あんなブスと同じ顔じゃねーよ」


「えー、瑠璃さん可愛いよ。美人系より可愛い系ね、元気なソウちゃん!って感じがした」



ボクにとってはかなり不満な意見だな。

あれと同じ顔って・・・まぁ、幹太も「ソックリ、瑠璃と双子かよ」って笑ってたけど。



「さて」ルウコはそう言ってから、ニヤっと笑った。


「何?」


「アルバム、小さい頃からの写真見せて。実は楽しみにしてたの」



女の子って何で昔の写真見たがるんだろう?

ボクのアルバムを見ながら「可愛い!」とか、「あははは」と爆笑したり、ルウコは結構楽しそうにしている。


「ソレ・・・重くないか?」


ボクの部屋に来てからルウコの膝の上に居座っているフレンチブルドッグの『ペンすけ』を指差した。


「平気。可愛いね、それに名前が面白い」


ルウコはペンすけの頭を優しく撫でた。



ボクの家の犬達は、ダックスの『モモ』と『紅(べに)』、チワワの『藍(あい)』に、この『ペンすけ』。


「ソウちゃん達もそうだけど、みんな色なのね。ペンすけは別だけど」


「母さんが美大に行ってて、何かわかんないけど何十色もある色鉛筆が好きだったから、みんな色がつく名前らしいよ。ペンすけは完全なネタ切れらいいけど」


「そうなの?ステキねー。ペンすけは面白いけど」


ボクもルウコもペンすけを見て笑った。




「ご飯よー」


階段の下から母親の声が聞こえた。


「あたしお手伝いしなきゃ」


ルウコは慌てたけど「いいんだよ、気にしないで」とボクが言うと、


「でも・・・お邪魔してるのに」


と不満そうな顔をした。


「まぁ、お客さんなんだから気にすんなって」


ルウコの背中を押して部屋を出た。
夕食にはなぜかいつもは遅いはずの親父までいて、興味津々でルウコに話しかけていた。


ルウコはそれなりに楽しそうに見えたけど・・・


(うちの家族は何なんだ!?)


ボクはため息の連続だった。



「ごちそう様でした」


ルウコが笑顔で箸を置くと、母親が「大丈夫だったかしら?」と言った。


「え?」


ルウコがキョトンとしている。


「ソウが、ルウコちゃんはカロリーが高い食べ物は苦手って言ってたから」


母親の言葉を聞いて、ルウコは微笑んだ。


「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


ボクは内心(余計な事言うなよ)と母親に思っていたけど、ルウコはちょっと間をあけてから喋り始めた。


「あたし、心臓病なんです」


食堂テーブルに座っていたボクの家族全員が固まった。

ボクもまさかルウコがそんな事言うとは思わなくてビックリした。



「え・・・?心臓?それって大丈夫・・・なの?」


姉貴がしどろもどろになりながら聞いた。

ルウコはニコリと笑ったまま、首を振った。


「治らないです。それに、食事とか色々気をつけないといけなくて・・・。ソウくんには本当に心配ばっかりかけてしまっているんです」


ボクを見て、今度はボクの家族に視線を戻した。


「あたしがこんな身体なので、ソウくんには沢山迷惑をかけてしまって、すいません」


そう言って頭を下げた。