心の準備ねぇ…
シャワーを浴びながら考えていた。
ん?
心の準備?
「うわ!どうしよう!」
風呂場にしゃがみこむ。
初めての子とするってどんな風にすればいいんだ?
正直、初めての子なんて自分が初めてだった時しかない。
え?
え?
どうすればいい?
何だっけ、優しくしてね。ってよくテレビで見るけど優しくって何だよ!?
それにルウコの病気の事を考えたら、必要以上の優しくしてね。が必要?
ルウコも緊張して頭が混乱してるだろうけど、ボクもすっかり頭が混乱してしまった。
優しくしてね。って何だ!?
何基準なんだ!?
風呂場から出る時にパンツとTシャツってのもおかしいよな、と思ってハーフパンツを履いた。
頭にバスタオルをかけたまま部屋に戻るとルウコは携帯で何かを見てる。
その顔は真剣そのもの。
「何してんの?」
ボクが声をかけるとビックリして携帯を落としていた。
「…え?」
「何か真剣に見てるから」
ルウコはちょっと赤くなりながら携帯を差し出してきた。
ボクは携帯を受け取って見てみると、それは明日香からのメールだ。
『とりあえず、ソウちゃんに全てまかせてルウコは目を閉じて寝てれば大丈夫!!あ、股は開くのよ(笑)』
ボクはそれを読んで爆笑してしまった。
「え!?笑うところ!?」
ルウコは驚きながら言った。
「笑うよ。股は開くのよって明日香っぽいなって。あはははは」
明日香のメールを見たら、さっきまで、どうしよう!!ってなってた緊張がなくなってしまった。
「風呂どうぞ」
ボクはまだ笑いながら言った。
ルウコは顔を真っ赤にしたままバスタオルを掴んだ。
「絶対、覗かないでよ!」
「わかんないよー、覗くかもよ?」
「バカ!!」
ルウコは怒って風呂場に駆け込んだ。
ボクがベッドに寝転んで窓から見える夜景を見ていると、ルウコがワンピースで出てきた。
サラっとしてそうな家着みたいな素材っぽい。
ベッドのそばに突っ立っているから、ボクはベッドをポンポンと叩いた。
「電気!!」
叫ぶように言って慌てて電気を消しに行ってから、ようやくベッドのふちに座った。
「ルウコさん?」
「え!?」
「遠いんですけど」
ボクが笑いながら言うと、困った顔をしている。
ルウコの腕を引っ張って近くに引き寄せた。
ボクの真下に寝転んだルウコは不満そうに呟いた。
「夜景で丸見え」
「夜景が売りですから」
笑いながらキスをしようとすると、「ちょっと待って!」と顔を押さえられた。
「…優しくして下さい」
ルウコの言葉にボクはまた爆笑してしまった。
「リアルに言う人いるとは思わなかった」
「え?」
ルウコは不思議そうにしてるけど、軽くキスをしてから、
「努力します」
とボクは言った。
ボクの腕枕でスースーと寝息を立てて寝ているルウコを見ていると幸せってこんな感じかな?と思った。
学校一のモテ女、柏木 流湖の初体験は、
「キャア!」とか「痛い!」の連発で、とても清楚なイメージとは程遠い感じ。
何か発作とか起こしたらどうしようかと心配だったけど、規則的な寝息を立てているから大丈夫みたいだ。
ボクはルウコが本当に大事で大好きで…でもまだガキのボクには『愛してる』という感情がよくわからないけど、近いものはある。
これから何年もずっとルウコがそばで笑ってくれていたら幸せだな。
………………。
『いずれはこの病気で死ぬのよ。みんなより早くね』
病室でルウコが口にした言葉を思い出した。
その確定されない不安定な未来って何だろう?
何で今、幸せだって思うのにこんな事を思い出す?
何だったっけ?
『幸福と絶望は紙一重なんだ』
これは、ルウコが好きなバンドの曲の歌詞にあった言葉。
フェスでルウコが涙をボロボロ流しながら感動していたあのギターボーカルが書いた歌詞。
幸福と絶望は紙一重…
今のボクの気持ちはそれに近いかもしれない。
ルウコへ
手紙を書くのも初めてだったけど、郵送するのも初めてです。
子供の頃、年賀状を書いたくらいです。
夏休みももうすぐ終わり。
早かったけど、楽しかったな。
ルウコと色んな所に行けたし、フェスに行って、海で遊んで、買い物して、泊まりに行って・・・。
部活があったから毎日会えたわけじゃないけど、ルウコと思い出がいっぱい出来ました。
ルウコはいつも手紙でボクに「ありがとう」と書いているけど、ボクもルウコにありがとうと思う事がたくさんあります。
でも、ボクのありがとうはルウコの悲しい思い出作りじゃなくて、ちゃんと未来がある。
ボクはルウコとこれからもずっと一緒にいたいから。
病気に勝手に未来を決められたくありません。
ルウコがボクといる事で、病気だからって何でもあきらめてきて今までを変えてくれたらボクは嬉しいです。
ボク達はまだ17歳で老いて死んでしまうまで時間は充分あるから。
だからあきらめないで今の時間を大事にして、病気とはその都度向き合って頑張ってほしい。
ボクからのお願いです。
夏休み、最後の週の月曜日OKです。
うちの家族も犬も楽しみにしているみたいです。
騒がしい家なんでビックリしないで下さい。
では。
高柳 蒼
ルウコがボクの家に泊まりにくる。
朝から母親はバタバタと滅多に作らないお菓子なんて作り出すし、夏休み中彼氏の所に入り浸っていた姉貴まで帰ってきていて呆れてしまった。
「別に普通にしてりゃいいんじゃねーの?」
ソファに座りながらボクが言うと、姉貴が「バカ!」と怒鳴った。
「アンタ、あんな恐ろしいくらい美人な子が泊まりにくるのよ!今までのアンタの彼女が遊びに来てたのなんて比べ物にならないの!変な家族だって思われたくないじゃない!」
「・・・それ、今までのオレの彼女にかなり失礼だと思うけど」
「別れてんだからどうでもいいのよ!」
ボクと姉貴のやり取りを無視して母親が割り込んできた。
「ソウ!やっぱりケーキとかでいいかしら?アップルパイと悩んでいるのよ」
「一番カロリー低いのどれ?」
ボクの質問にキョトンとしている。
「別に作らなくてもいいけど、作るならカロリー低いのにして」
「え?ダイエット中なの?」
母親も姉貴も不思議そうにボクを見ている。
一応、簡単にだけは説明しておくか。
「彼女、高カロリーのものあんまり食べれない身体なんだよ。多分、薬飲むから大丈夫だと思うけど。一応、そんな感じだから」
「どういう事?」
姉貴が色々聞いてこようとしたのを母親が制した。
「了解。低カロリーね」
そう言ってニッコリ笑った。
ルウコが来る、それだけで高柳家は大騒ぎだ。
「お邪魔します」
玄関でルウコが頭を下げると、姉貴も母親もニコニコしていた。
「いらっしゃい、ルウコちゃん。入って入って」
ボクが何か言う前に姉貴がルウコの腕をグイグイ引っ張ってリビングに連れて行ってしまった。
「あ、あの・・・これ、お菓子を・・・」
ルウコが紙袋を手渡そうとしていても、「とりあえず入ってからね」とさっさと行ってしまった。
ルウコと目が合ったボクは苦笑いをした。
ボクの隣にいた母親がボクの背中をバンと叩いた。
「ビックリするくらい美人でしょ!離すんじゃないわよ」
ニヤっと笑ってからリビングに戻って行った。
犬達までルウコの周りに群がりながら行ってしまう。
(充分、変な家族だと思われてるぞ)
ボクはため息をついてリビングに向かった。
「あたし、高柳瑠璃。ソウの4コ上の姉です」
ソファに座って母親が出してきたお茶を飲むと、姉貴が自己紹介をする。
「はじめまして。柏木流湖です」
ルウコはニッコリと笑った。そして、
「瑠璃さん・・・。お姉さんもお名前が色なんですね」
と言った。
「え?あぁ、そうなのよね。」
「ソウちゃんが、蒼で、お姉さんは瑠璃色。ステキですね」
「ソウちゃん?こんなのに「ちゃん」なんて付けなくてもいいのに」
姉貴がガハハと笑う。
ルウコと並ぶと同じ女かよ、と思ってしまう。
「てかさ、もういい?」
ボクが言うと、姉貴は「あたしはルウコちゃんと話をしてるのよ」と文句を言った。
「後でゆっくり話せばいいだろ?ルウコ、オレの部屋コッチ」
ペットボトルのお茶を冷蔵庫から出して、ボクはルウコに手招きをした。
ルウコは慌てて「後で」と頭を下げてボクについてきた。