はははは。あるあるっ、こういうの。
この年頃ってさ、なんか女の子の方が考え方が大人なんだよねぇ。
彼女も同じように不安だよ、きっと。でも、口にしても仕方ないじゃん。それってよけに不安になるし、不安は猜疑心・・・そう疑う心を生むからね。
堂々とするのって難しいかもしれないけど、こういうときこそ、どーんと構えたほうが彼女も頼りにしてくれるよ。
好き、って気持ちはさ、誰かと比べられるもんじゃないし、ましてや過去や未来の自分とも比べられないんだよね。今好きな気持ちを大切にね。
さて、そんな「ポチ助」くんに贈るのは、来年1月15日発売の私の新曲です。
アオイで「手のひらからこぼれおちる」です』
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「手のひらからこぼれおちる」
【作詞・作曲 AOI】
永遠なんて たぶんない
はじまってしまえば
終わりを待つだけ
あの夏 あの海で
両手ですくった砂は
まばたきしている間に
こぼれおちて
あとには もう
なにも残らなかった
たしかにあった あの夏を
すこし焼けた肌と
すこし傷む胸が
覚えていても
それでも あなたを愛してよかった
いつかは 消えるとしても
今は ただこの瞬間を
愛しく思う
あなたを愛せてよかった
今 となりにいることを
大切にしたい
【2】
彼女の雨
夢と覚醒の間で、遠くから途切れることなく聞こえる雨音が耳に入ってきた。
目を開けるとその音はますます大きくなったような気がした。
青いカサをさしていつもの道を歩く。今日は土曜日で、半日授業なので気分もいくぶんラクだ。
カサをさして歩く道は視野も狭く、自然にアスファルトに跳ねる雫を眺めながら歩くことになる。
自分の足音が雨の音に消え、世界はまるで色を失ったモノトーン。
この世にひとりっきりのような気がするのはなぜだろう。
カサをたたみながらホームへ上がると、そこには昨日と同じく涼子の姿はなく、さすがに私は不安になってきた。
電車が来るまでの2分間、私はいいようのない不安がおしよせてくるような感覚を味わっていた。
「きっと、試験だから早く行っている」
そういう考えも、昨日のメールの返信がまだ来ないことから、否定されたような気もする。
電車に乗り込み、私はふたたび涼子へメールを打つ。
『おはようございます。試験・・・』
そこまで打ってからしばらく考えた後、私はメールを消した。
もし、もしもこのメールすら返ってこなかったらますます不安になってしまうだろう。大きくため息をつくのと同時に、
「よぉ」
と後ろから声がかかった。
驚いて振り向くと、優斗がむすっとした顔ですぐ後ろに立っていた。
「なんで、あんたがここにいるのよ。部活は?」
「うるせーやい」
優斗は、ますますぶっちょうずらになって横を向く。
「寝坊したの?」
と尋ねながら、私は優斗が昨日休んでいたことを思い出した。
混み出した車内で、身体の向きを優斗に向きなおす。
あいかわらず優斗はそっぽを向いたままだ。
「ねぇ、昨日さ休んだでしょ?風邪?」
できるかぎり優しい声で尋ねてみる。
「・・・まぁ、な」
「ウソだね、あんたってほんとウソが下手」
間髪いれずにそう言うと、少なからず動揺したのか、
「うるせー、ブス」
と、優斗は目をそらした。
乗り降りする人の持つカサで濡れないよう、身体をなるべく小さくすぼめながら、私は優斗を改めて見つめる。
今日の優斗は何か変だ。
憎まれ口はいつものことだが、なんだか元気がないように見える。
本当に風邪をひいたのか、それとも・・・。
「あのさ、昨日も今日も・・・涼子さん見てないんだよね。まさか涼子さんも昨日学校休んだ・・・とか?」
そう私が口にした瞬間、私は優斗がピクッと反応するのを見逃さなかった。自分でも動揺してしまったのがバレたと思ったのか、優斗は頭をボリボリかきながら、
「アネキ・・・いないんだよ」
と、まるでつぶやくように言った。
「は?いないってどういうこと?」
思わず、狭い車内で優斗に詰め寄る。優斗は、顔をうしろにそらしながら、
「しらねーよ、いないもんはいないんだよ」
と怒ったように言い放った。
涼子がいない?それってどういうこと?
頭の中が高速回転でうずまく。
「ねぇ、ちゃんと話してよ。私、これでも涼子さんのことあこがれてるし、全然知らない仲じゃないんだからね」
優斗は、そらした姿勢のまま私を見下ろしていたが、やがて肩で大きく息をはくと、
「おとついの夜さ、夜ご飯になっても来ないから母親が部屋に見にいったら、いなくなってたんだよ。それから今日までなんの連絡もない」
と、観念したように言った。
「それってさ、誘拐とか?」
「いや、ちがう。書置きっていうのか、手紙が置いてあったから」
頭の中に、まだ見たことがないにもかかわらず、部屋にポツンと置かれた手紙の映像が浮かぶ。
「じゃあ・・・家出したってこと?」
「そういうことなんだろうな、たぶん。手紙にもそう書いてあったし」
他人事のように優斗は言った。
「手紙にはなんて書いてあったの?」
優斗はしばらく天井を仰ぎ見て考え込んだ後、内容について話し出した。
「手紙の中にはさ、『ごめんなさい。いろいろ考えたいことがあって、しばらくひとりになります。学校はお休みします。期末テストの残りは戻ってきたら補講を受ければ大丈夫なはずなので、できれば風邪をひいたことにしてください。冬休みが終わるまでには戻ります。お母さん、ごめんなさい。でも、分かってくれるよね?警察には言わないでね。私は大丈夫ですので』とか、そんなかんじだったかな」
「そんな・・・」
「ま、そんなこんなでおとついはいろいろ人に電話したり、行きそうな場所を探したから寝不足で俺も学校行けなかったわけ。ちなみに今日も朝練なんて行く気になれないし、どっちみち雨だしな」
そう言う優斗の目は寝不足が続いているのか赤く、疲れているように見えた。
電車を降りてからも、私たちは自然に並んで学校へ歩き出す。
「お母さんは、それでどうするって?」
「アネキの言うとおりにするってさ。探しても見つからないし、きっとよほどの事情があったんだろう、って」
果たして本当にそれだけなのだろうか?自分の娘が、ましてや高校生の年頃の子が家出したのだ。私なら、そんな簡単にあきらめられないし、逆にあきらめてほしくないものだが・・・。
「涼子さん、何かに悩んでいたの?」
「さぁな、俺にはいつもと変わらないように見えたけどな」
「お父さんは何て言ってるの?」
私がそう尋ねた瞬間のことだった。優斗は、今まで見たこともないような鋭い目を私に向け、
「あいつにはかんけーねえよ!」
と大きな声で怒鳴った。
驚いた私が、思わず立ち止まって目を見開いていると、
「あ・・・いや、ごめん」
と言い、迷うようなそぶりをした後、早足で学校の方へ行ってしまった。