涼子はそんな私を笑うようなことをせず、
「でも、もしフラれたら会いにくくならない?」
と尋ねてきた。

「そりゃそうだよ。でも、同窓会とかくらいっしょ、困るのは。だったらコクったほうが良くない?」

「そうだね。・・・カナちゃんは、本当に井上先生が好きなんだね」
そう言う涼子の顔が、なぜかさみしそうに見えたのは気のせいだろうか。

 昨日の小浜幸広のことを聞きだそうと口を開きかけた時に、電車のアナウンスが流れた。ほどなく、甲高いブレーキ音をたてて電車がやってきた。

 
 いつもの場所に立ち、改めて涼子に視線を向けると、
「カナちゃん、小浜さんって昨日紹介したでしょ?」
と、涼子の方から口を開いてくれた。

「うん。涼子さんの恋人なの?」
野球で言うならば、ストレートど真ん中なボールを投げる。


 涼子は一瞬微笑んだが、すぐに真顔になり、黙ったまま視線を窓の外に向けた。どうして良いのか分からずに、私もつられて外を見る。曇った窓越しに、同じように曇った空と町並みが流れてゆく。