私は腕をつかまれたまま、彼女を見つめた。

 しばらくの沈黙。


「私・・・私、優斗の家のことはよく分かりません。お父さんがきっとひどいことをしているのは分かりました。お母さんがつらかったのも分かりました。でも、だからって逃げるのはずるいって思う」

「逃げる?逃げるって何のことよ」
急に怒ったかのように詰め寄ってくる彼女をかわしながら、私は続ける。

「逃げてるじゃないですか。お父さんが優斗や涼子さんにひどいことをしているのに、お母さんは逃げてるんじゃないですか。今、この瞬間にも優斗は殴られているかもしれない」

「何も知らないくせに!私だって、大変なんだから!」

「大変だからって、他の人を、ましてや自分の子供を傷つけていいとはかぎらない!」