「あら、ごめーん」

 振り返った女性が箱を拾い上げ、そして私と目が合う。

「あ・・・」
 私を見つめたまま、そう声に出す。
 きっと、彼女が声を出さなければ気が付かなかっただろう。

 40を越えているであろう女性は、似合わない厚化粧にきつい香水をあたりに漂わせていた。
 箱を片手に持ったまま、まるで金縛りにあったかのように立ち尽くしている。

 1度しか会ったことがなかったが、すぐに分かった。分かってしまった。

「優斗・・・のお母さん・・・?」

 声にならない声で、唇だけ動くような感覚でこぼれおちる言葉。

 その声に呪縛がとけたかのように、その女性はさっと後ろを向いてしまった。

「なに、お前知り合い?」

 覗きこむように若い男がこっちを見る。