すると、どう考えても足りないものがあった。

 旅行用の歯ブラシセット、そして酔い止めの薬だ。

 恵美に尋ねたが両方とも家にはなく、歯ブラシはコンビニでも買えるが、空港に薬屋がないことを考えると買いに行ったほうが無難だろう。
 明日、恵美たちに駅まで送ってもらうのは朝の8時。薬屋はまだやっていないだろう。

「ちょっと行って来る」

 そう恵美に言い残して、私は暗い通りへ足を踏み出した。


 時間は夜10時半をすぎている。

 さすがに通りに人の姿はなく、暗い街灯のもと私は駅へ向かって走った。この時間で空いている薬屋といえば駅前しかない。

 寒さも感じないくらい必死で駅前近くの薬屋に飛び込んだ。

 息切れを押さえながら、まずは歯ブラシセットを手に取り、続いて薬コーナーへ足をすすめたその時、奥のほうからにぎやかな笑い声が聞こえた。