いや、違う。
私はもともと、そんなに音楽を聞くことはなかった。
碧が中学に上がってからハマり出して。
いろんな曲を聞くようになって。
…それを一緒に聞くうちに、嫌でも曲を覚えてしまった。
特にスピッツは今でも歌詞全部を覚えている。
「碧、今でも上手いね」
「夏海は今でも下手だな」
「な…何よ!」
いつの間にか私と碧は一緒に歌っていて。
一緒に笑っていた。
小さい頃に戻ったみたいに。
碧の部屋にある、小さなラジカセで聞いていた頃と何も変わらずに。
――好きだとか恋だとか。
そういうことを言い出さなければきっと…私達はこれまでずっと変わらなくて、
そしてずっと変わらずにいられるのだろう。
そんなことを強く思った。
そんな訳にはいかないことが分かっていた。
それが大人になったということも…なんかもう、全部分かっていた。