デートしよっか。
俺は敢えて、軽いノリでそう言った。
夏海は何も言わずに、代わりに俺をそっと見上げた。
ちょっぴり不安そうな瞳。
受け入れるでも拒否するでもなく。
「…大丈夫だ。誰にも言わなくていい。それに…」
麻美には最初から分かっていたんだ。
分かっていて、それでも俺に行かせた。
――これで最後にするために。
その言葉は呑み込んだ。
少し誤魔化すように、夏海の頭をそっと撫でた。
何年経っても変わらない、柔らかくてサラサラの髪。
離れてから、何度触れたいと願ったことだろう。
"好きだよ"
―――何度そう言いたいと願ったことだろう。
伝えたいことが今でもありすぎて。
それをすべて伝えるには、
守りたいものがありすぎる。