数日前の、あの夜。
那智が去ったあと、公園に駆けつけたのは救急車ではなく、斗馬くんのお姉さんの車だった。
てっきり119番したのだと思っていたあたしに、
「事を大きくしない方が、藍の弟のためにいいと思って。
姉ちゃんの知り合いで医者がいるから、そこに行こうと思ったんだ」
と斗馬くんが言った。
あんな状況でも冷静な判断ができる彼は本当にすごい。
すごいけど、その心づかいが申し訳なく感じた。
かんじんのケガ人である那智は帰ってしまっていたので、結果的にお姉さんはムダ足を踏んだだけだった。
でも嫌な顔ひとつせず
「あなたが藍ちゃん? いつも斗馬からノロケ聞いてるよー」
と、気さくに話しかけてくれた。
斗馬くんとお姉さんはとても仲よさそうだった。
これが本当の姉弟なんだ……とあたしは思った。