アパートの前で立ち尽くしていると、急にザッと雨が降り出した。


あたしは駆け足で階段を上がり、表札がない玄関の前で立ち止まった。



ついに帰ってきたんだ……。



ドアを引くと、家の中はひっそりと薄暗かった。


那智は、留守らしい。


なつかしい家の匂い。

怖いほどの静けさ。


昨日までのにぎやかな日々が急に遠ざかっていく気がして、愕然としていると

バッグの奥で携帯が鳴った。



『ちゃんと家、着いたか~?
俺はさっき帰ってきて、久々の我が家でくつろいでるとこ。
藍もゆっくり休めよ!』



斗馬くんからのメールだ。


……うん。大丈夫。

昨日までの日々は、幻じゃない。


これからあたしは斗馬くんと歩いていくんだから。