こんなときは、那智が置き忘れていったタバコを一本もらうことにしている。
苦いだけで全然おいしくないけど、那智とキスしてるような気持ちになれるから。
煙を肺に入れずにふかすと、夜空に白い靄が広がった。
……今日、那智はめずらしく、誰よりも早く「帰る」と言い出した。
受験生にもかかわらず、那智のグループは毎日深夜まで誰かの部屋にたまって遊んでいる。
あたしも那智のそばにいるようになってから、帰りが遅くなったとお父さんに怒られるんだ。
でも今日に限って那智は、「法事の準備がある」とか言って、夜の9時にはさっさと自分のアパートに帰ってしまった。
正直、複雑だった。
ただ帰るだけならいい。
だけど、那智が帰る先には――
あの人がいる。