「……また、朝帰り」
あたしはカーテンを閉めて、ぽつりとつぶやく。
「この不良少年」
言ったそばから、むなしい笑いがこみあげた。
バカみたいだな、あたし。
ひとりでお姉さんぶって。
本人の前じゃ目も合わせられないくせに。バカみたい。
玄関から足音が聞こえ、隣の部屋に那智が入ったのがわかった。
それと入れ違いに、あたしはアパートを出た。
アパートのすぐそばのゴミ捨て場では、近所のおばさんがゴミ出しをしていた。
「あら。藍ちゃん、おはよ」
「おはようございます」
親を亡くしたあたしに、近所の人たちは優しい。
少し立ち話して、おばさんは去って行った。
ひとりになったあたしは、そっとカバンを開けた。