「……もう、いや」


私の唇から、ぽたり、言葉が零れ落ちた。

そしてそれは、黒い床に混じり“死”という甘い香りを立たせる。



「このバカが!!」


だけどその立ち込めてくる香りを遮ったのは。

「何もしてねぇ状況で、逃げるんじゃねぇよ!」

必死に私の手首を引っ張る、青野君だった。


「スタートしろよ! スタートしたらなぁ、例えハードル倒そうが、引っかけて転ぼうが、ゴールするしかねぇんだよ!!

一回ぐらい倒したってどうってことねぇ、オレなんかしょっちゅう倒してるからな!

スタート前は吐きそうなぐらい緊張するし、逃げたくなる。だけどゴールしたときは信じられねぇぐらい気持ちいいんだ。タイムが悪くて凹むときもある、だけどなら次頑張ろうって思うじゃねぇか。

やらなきゃな、結果は出ねぇんだよ!!」


真っ直ぐな言葉は、槍となって真っ直ぐ私の身体を突き抜ける。


「戻ったら……死んでるかもしれない」

それでも私から出てくるのは淀んだ言葉。