「言葉が悪いけどな。死を選ぶって何よりも勇気があるんじゃないかと思う。だけど、乾」


ぽろぽろ、ぽろぽろと。

とまることを知らない涙が、顎先から零れてゆく。


よくわからない。

本当はとても酷いことを言われているのかもしれない。


だけど、今の私には。



これほどまでに暖かい言葉はないと思った。



「死ぬことが出来るなら、もっと他のことも出来ると思わないか? どうせ死ぬなら、死ぬ前にどんなことでも出来ると思わないか――」


繋がれた手に支えられているのは私だった。

その温もりに触れていたのは私だった。


「あのとき、屋上から足を踏み外せた乾なら、きっと他のことも一歩踏み出せると思う。だから」


涙の向こう、霧崎君が微かに笑った気がした。



「お前は行けよ」



だけど、ううん、だからこそ。


私はその手を離さない。