「だから、乾には悪いと思っている」
「え……?」
返す言葉が見つからないうちに、霧崎君が意外なことを口にした。
驚いて改めて彼を見ると、微笑みは消え、今にも泣き出しそうな子どものような顔がそこにあった。
「勝手に“同じ”なんだろうと思っていた。きっと乾も俺と似てるんだと……すまない」
“同じ”
不思議とその言葉は嫌ではなかった、でもそう思われていたことには素直にびっくりした。
「そんな……悪いことなんかないよ……それに私だって」
「あのとき、屋上から落ちてくる乾を見たとき、俺は羨ましいと思ってしまったんだ」
慌てて口にした言葉を遮って出てきた言葉に、耳を疑う。
“羨ましい”
その言葉に足を冷水に浸されているような感覚を覚える。
「何も変わらない、変えることが出来ない。そう、自分に辟易(へきえき)しているだけ。
死ぬことすら選べない俺に対し、なんてこいつは意志が強いんだろう……って」
冴え冴えとした感覚に。
冷たい涙が、頬を伝って落ちてゆく。