答えない私を予感していたのか、霧崎君は俯いたまま首を少しだけ捻り、こちらを見た。

だけどその表情には軽蔑も蔑みもなく、どこか儚く微笑んでいる。


「俺は入学してすぐに16になった。環境は確かに変わった、だが俺自身は何も変わらない……変えることが出来ない」

繋がれたままの手が、微かに震えていた。


「ずっと……転校ばかりだった。仲良くなってもそのうち離れ離れになる、自然と連絡は途絶えてゆく。それを繰り返しているうちに、人づきあいがわからなくなった。

どうすれば上手く会話が出来るのか……考えるうちに出来なくなった」


涙は零れていない、でも確かに彼は泣いていた。

指先からそれが痛いほどによくわかる、手のひらからその悲しみの温度が切ないぐらいに伝わる。


「ならば独りでいいと、どうせまた別のところへ行くのだからと。そう強がってひとりでいることを好んだ。

だが実際は……クラスの中でどこにも居場所がないことが嫌だった。皆が笑っているのを遠目に見て……羨ましかったんだ」


私が彼に感じたことは間違っていなかった。


でもそれは。

私が感じていた以上に、きっともっと根が深かったんだ。