手を繋いだままだった。

後ろにふたつ椅子はあったけれど、横並びに立ったままだった。


人の目を見て話すのは、本当は苦手だから。


「高校生ってもっと大人だと思ってた。16歳になったら何かが変わるんだろうって思ってた。だって、小さい頃に見た高校生はとても大人で輝いていたから。

でもね、何も違わなかった。みんなが『もう高校生にもなったんだから』って言う。そう、もう高校生なんだから自分のことぐらい、自分でなんとかしなくちゃいけないって思ってたの」


相槌も何もない、だけど私は壁に向かって喋ってるわけじゃない。


「だけどね、何も変わらないんだよね。私はまだ子どものまま、何も出来ない。兄に反抗することも、見知らぬふりをする母親に泣きつくことも、何も知らない父親に訴えることも出来なくて。

それが嫌だった。醜い感情ばかり生まれてくる心と、それを上手く処理出来ない自分。私は家族や人生に絶望したわけじゃない。

自分に幻滅したんだ」


一度止まってしまったら続かないような気がしたから一気にまくしたてるように喋ってしまった。


恐る恐る横目に見た霧崎君は少しだけ俯いていて、静かに呼吸をしている。

半透明の膜が、ふよふよと揺れていた。

それはまるで私の呼吸に呼応するかのように。