「霧崎も、連れて来い。こっちへ」


ちらりと見た霧崎君は、まだ床を見たまま右手を挙げていた。

まるで何かに葛藤しているように、戦っているように。


だから私は。


「もし途中で迷っても僕らが引きずり出してやる。そうだろう、青野、日下」

「お……おうよ! 力には自信あるからな!」

「あんた馬鹿!? そういう問題じゃないでしょ」



真っ直ぐ、右手を挙げた。



大庭君は頭の回転が速い上によく私や霧崎君を見ていた。

だから考えることも気づくこともあったのだろう。


その横に立つ日下さんと青野君は、もしかしたらわかってないのかもしれない。

でも、それでも彼らは笑顔を見せてくれたから。



そっと霧崎君の左手を取って、握った。

そんなことが出来るなんて、自分が一番驚きながら。