ならば霧崎君だけ何もない、というのは不自然な気もするし。

でも頑(かたく)なに言うことを拒んでいたのだから、言わない気もしていた。


だからこそ、ここで右手が上がったことに正直驚いてしまう。



「そうか」

日下さんと青野君が少し苦しそうな表情をしている横で、大庭君は一瞬瞼を落としてから零すように言った。


ただ沈黙は束の間。

再びこちらをしっかりと見据えた目は、ぼやけた世界の中でもはっきりと見える。


「ならばお前らふたりは、そこから生まれ変わって来い」


その強い瞳が告げてきたことばは。


「“胎内くぐり”というものがある。狭い洞窟などを胎内と見立ててそこをくぐることで生まれ変わるというイニシエーション、通過儀礼だ。

その膜がそうなのかはわからない。だがそれがもしお前らを包む繭のようなものであれば、孵化して来るんだ」


あまりにも唐突過ぎて、意外過ぎたのに。

耳から脳へ素直に伝達され、どこかにある“こころ”に到達する。


「例え、乾が何か考えて具現化したのだとしても。それは乾が意識を変えねばならんのだろう。だったら乾」


名前を呼ばれ、私はひとつ頷く。