「ならば僕が言ってることがわかれば右手を挙げてくれればいい。わからない、出来ないというときは左手だ。わかったか?」
やはり彼は機転がきくな、と思いながら右手を挙げた。
横目でちらりと霧崎君を見れば、彼も右手を挙げていた。
「この膜みたいなものは破れそうにはない。つまり物理的に外へ脱出するというのは不可能なのだろう。ということはふたりの内面的問題に関わると思っている」
手を下ろした私たちを一瞥してから大庭君は眼鏡を押し上げ、淡々と語り出した。
それは確かに少し事務的で説明口調だったけれど、余計な感情が入っていないことが嬉しい。
「今までの事柄から乾の意志は反映されるのだと予想がつく。ならばまず乾、この状況を作り出した一因はお前だろう」
大庭君が一端ここで呼吸を置いたので、私はそっと右手を挙げた。
こちらをしかと見ていた眼鏡の奥の瞳が、顔が動かずとも頷いているように見える。
彼が言っているのはきっと間違いじゃない、私がさっき思った通りのことが起きたのだから。
「問題は霧崎、お前が一緒にいることだ」
ただ大庭君は私が思いもよらなかった単語を発した。