「待て、霧崎。まだ夕方だ、学校には誰かいる。戸締りの際に気づいてくれるだろう」



椅子を頭上に持って行こうとしたところで、大庭君が止めに入った。

確かにそうか、と今更気づき私も日下さんもほっと胸を撫で下ろす。



「気づくって、廊下から見えねぇじゃん。ドアだってスリガラスだし――」

「廊下の足音が聞こえるだろう。誰も来なくても戸締りには来る。そのとき教室のドアが開かなければ不審に思うだろうし、外からドアに手をかけたらわかる」



心配そうな青野君の言葉には大庭君がぴしゃりと言い切った。

学級委員長の彼は、頭もいいし、機転が利くし、頼りになるなとこんなときに感心してしまう。



「だいじょぶかな、弥八子(みやこ)……」


日下さんが私の袖をちょっとだけ引っ張る。

普段の彼女は明るくとにかく元気がいいので、ちょっと意外。


「大丈夫だと思うよ」


私はなるべく声が震えないように、頑張って言ってみた。