誰も、何も言わない。

だからこそ。



今なら私は、声が出そうな気がした。



「あの、ね……」

少しかすれたような声でもよく通る。

皆の視線が一瞬こちらを向いたけれど、平気。





「私……ちょっとだけわかるよ」


おずおずと言ってみたひとこと。

それに反応したのは大庭君ではなく、日下さんだった。


「わかる……? 悪いけど弥八子、人の苦しみとか辛さなんて、他人には理解出来ないよ」

今までの明るい声とは打って変わって、少し冷たく低い声。

その上、ちょっと表情が暗い、日下さん自身が辛そうに見えた。