「いっきゅうさん、こんばんは」

「いっきゅう……あはは……こんばんは」

がっくりと肩を落としておれが苦笑いすると、翠はアスファルトに寝転がって笑いだした。

ゲラゲラ、豪快に。

「傑作ー! いっきゅうだとさ」

「笑うな」

「まじでツボ! 補欠、いつから一休に転職したんだよ! はい、ナンマイダー」

「うるせえなあ」

その時、今度はそうたくんが体当たりして来て、小さな顔に大粒の目を暗闇に輝かせた。

「ぼくとおんなじあたま」

そうたくんはおれの頭をもみじのように小さな手のひらで、ぐしゃぐしゃと掻き回した。

「ぽくぽくぽく……ひらめいたあーっ」

「ひらめいたあ」

「うああ……やめてくれー」

あかねちゃんは握りこぶしを木魚代わりにして、おれの頭をぽくぽく叩いた。

そうたくんはおれの頭を掻き回し、さらに目尻をびよーんと伸ばしたり、おれは2人のおもちゃにされた。

「補欠、あたしの妹と弟もなかなかのもんだろ」

翠が言った。

納得だ。

間違いなく、翠の妹と弟だ。

人懐っこいところも、悪戯が趣味なところも、無邪気な可愛い笑顔も。

全部、翠にそっくりだ。

「こら! あかね、そうた! やめなさい」

かっぽかっぽ、とつっかけで走って来たのは、翠とまるで同じ顔をした華奢な女性だった。

華奢な体にぴったりと吸い付くTシャツに、細身のジーンズを履いていて、ふわふわ頭のショートヘアー。

お姉さんもいたのか、とおれは単純に理解したつもりだった。

「翠! あんたは……遅くなるなら連絡一本入れな! あと1分遅かったら捜索願いだったよ」

彼女は言い、おれをおもちゃにして遊ぶ2人を軽々と持ち上げ、両脇に抱えた。

4本の小さな手のひらからようやく開放されたおれは、ふう、と一息つきアスファルトにべったりと座った。

「翠、心配したじゃないのよ」

「すまーん! 携帯の電池切れた! てか、あたしも電池切れ」

腹へった、と翠は言い、腹を抱えて再びアスファルトに寝転がった。

夜空に浮かぶ半月が、翠の細い体のラインを鮮明に際立たせていた。