うつ向き、静かに泣き続ける翠の机には直径3センチにも及ぶ、小さな水溜まりができていた。

おれは翠の手を握り、その力をそっと強めた。

本当にポキリといきそうな白い手だ。

「好きです。付き合ってください」

そう言っておきながら、おれは胸の内のど真ん中で翠に謝った。

ごめん、翠。

ありきたりな告白しかできない補欠で。

きっと、相澤先輩あたりなら、もっとカッコいい言葉で告白をするんだろうけれど。

でも、所詮補欠エースでしかないおれには、これが精一杯で。

けれど、全力投球の告白だった。

この月明かりに照らされているただ広い地球上のあちらこちらに、ごろごろ転がっている言葉だったのかもしれない。

ありふれた告白だったかもしれない。

でも、それが、この広い宇宙の片隅のちっぽけでしかない、補欠エースの全力投球だった。

こんなありふれた言葉しか言えなくて、ごめん。

「ぶっ殺す」

「えーっ……」

せっかく、一世一代の告白をしたのに、まさか、ぶっ殺す、という返事が返ってくるとは。

おれはこれっぽっちも考えていなかった。

そして、泣いておもちゃを欲しがる子供のようにわんわん泣きながら、抱き付かれるなんて。

まったく想定外のことに、頭がついて行かなかった。

笑い方話し方以外にも、翠は泣き方まで豪快そのものだった。

抱きつかれたときの力に負けて翠を受け止めたものの、情けないおれは後ろの机や椅子にぶつかりながら、翠ごと倒れてしまった。

ガアン、ギイー、と机や椅子がぶっ飛ぶような音が、3階フロアーに長く木霊した。

「痛ってえ……まともに抱き付いて来れないのかよ、お前は」

これじゃ、はちゃめちゃな告白劇場だ、とおれは軽く落ち込んだ。

でも、翠はそんな事はお構い無しで、赤子のようにギャアギャアと泣きわめいた。

「分かった! とにかく泣きやんでよ、お願いします」

とほほのほ、だ。

せったくの告白も、これじゃ台無しだ。

とんだ喜劇だ。

これじゃ、赤子をあやす補欠である。

「よしよし、泣くな!」

あやし続けていると、突然、おれの腕の中で翠が泣き叫んだ。