毎日、同じ制服を身にまとい、同じ校舎で1日の半分を共に生きているのに。

なのに、相手の気持ちを理解してあげるには、まだまだ力不足過ぎて。

落ち込み合って、励まし合って。

馬鹿みたいに泣いて、笑って。

でも、大人区域まではまだまだ道のりが果てしなく続いている、難しい年頃で。

健吾は一言も声を掛けずに、ただひたすら、寄り添うようにおれの隣で一緒に走ってくれた。

それだけが、唯一の救いだった。

おれはグラウンドに突っ走りながら、泣きたくて仕方なかった。

そんなおれにお構い無しなのは、大好きな野球と、どこまでも続いている青空だった。

ブルペンで投球練習に熱を出していると、フェンス横を相澤先輩の彼女の若奈さんと、涼子さんが通った。

「夏井くん、ごめんね。見に来ちゃった」

そう言って、若奈さんはやわらかく微笑んだ。

「あ、いえ、どうも」

「夏井くん、頑張ってね」

涼子さんは、優しい声をしている。

翠とはまるで正反対の穏やかな物腰の人だ。

だから、すごく惨めになった。

「おす」

おれは野球帽を取り、去って行く彼女達に深く頭を下げた。

でも、しばらく頭を上げる事ができなかった。

たぶん、相当ひどい顔を、おれはしている。

ピイッ、と聞こえたのは花菜が短命に吹いたホイッスルの音だった。

ひどく、泣けた。










部活を終えて制服に着替え、心地のいい疲れが残っている体で、おれと健吾は一緒に駐輪場に向かって歩いた。

もう夜の7時をまわっていて、空は群青色にとっぷりと浸かり始めていた。

澄んだ空気の中、瞬く秋の星座達がおびただしい数で夜空を彩っている。

「今日も疲れたなあ、響也」

「うん」

おれと健吾は家がそう遠くない事もあって、南高校から自転車で10分ほどの住宅街から通っている。

毎日、登下校も一緒の健吾が、ある事に気付きおれの横で小さく騒ぎ始めた。

「なあ……なあ! 響也」

と健吾は何かにとり憑かれたように駐輪場の前に立ち尽くし、暗く沈んでいる校舎を見上げた。