おれはその手を振り払い、怒鳴った。

「うるせえな! 触るなよ! 早く行け!」

翠は急に表情を強ばらせて、手を引っ込めて小さくなった。

翠の手を振り払ったおれの左腕が震えていた。

「何よ……何でそんなキレてんの」

「知るか! つうか、早く行けよ! もう来るな」

別に本気で怒鳴るつもりなんて、これっぽっちもなかったのに。

おれはガキだ。

「何だよ! 意味分かんないし! もう来ねえよ、補欠のバカ」

翠はムッとしてグロスたっぷりの唇を見事にへの字にカーブさせ、ブレザーの裾を揺らしながら立ち去った。

数メートル離れた場所から、結衣と明里がおれを睨んでいたけれど、おれは無視した。

いつもなら直ぐ様反撃開始といくところだが、おれは気が滅入りに滅入っていて、キャベツを刻む事で精一杯だった。

校舎の中に吸い込まれるように駆けていく翠を一度だけ見つめたけれど、見なければ良かったと後悔した。

翠は後ろ姿まで本当にフランス人形みたいで、ひどく悲しくなったから。

麦畑を耕して金を貯めても一生手の届かない幸せのフランス人形に、翠は見えた。

翠が校舎に入ったのを確認した時、胸ポケットで携帯電話のバイブレータが震えた。

それは、涼子さんからのメールだった。








DATE 10/25 14:28
From 渡瀬涼子
sub 夏井くんへ

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本当はね、球技大会の日に夏井くんに声をかけようか悩みました。

でも、あの元気な女の子と付き合ってるのかと思って断念しちゃった。

よかったら、付き合ってください。


涼子