春の選抜を逃した無念を未だに引きずり、ただでさえむしゃくしゃしていた日々だったのに。

おれは自暴自棄になり、もう、完全にやけくそだった。

「アドレス、交換しましょうか! 涼子さん」

「え、いいの?」

「はい」

「うれしい」

と涼子さんは花開いたように笑い、ありがとう、と添えた。

メールアドレスとついでに電話番号も交換して、涼子さんは相澤先輩たちと校舎の中に消えて行った。

後でメールするね、と言い残して。

その後は、とにかくむしゃくしゃして仕方なかった。

「良かったな、響也」

健吾が言った。

「何が」

「けっこう美人だったじゃん。あの涼子さんて人」

ざくざくと、黙々とキャベツを切り刻むおれに、おれの本当の気持ちをまだ知らずにいた健吾が、マーキングする犬のように寄り添ってきた。

「良かったなあ」

「別に。アドレス交換しただけだし」

むっくりとむくれっ面をして不機嫌に言うと、健吾は何かを察したのか、今度は心配そうな声を出した。

「あれ? 響也、何か怒ってんの?」

「怒ってねえよ。なあ、これ刻み終わったら校内回ろうぜ。もうキャベツはこりごりだ」

「ああ、いいけど」

不自然でぎくしゃくした会話をしている時、ひょっこりと来店したのはマネージャーの花菜だった。

それと、クラスの友達だろうか。

似たり寄ったりの背格好の女子と、花菜を含めて3人。

「ハアイ! お好み焼きくださいな」

「花菜……」

我ながら情けない声を出してしまった。

むしゃくしゃしていた気持ちが、少しだけ和らいだ瞬間だった。

花菜はおれの気持ちを知っている唯一の人間なのだから。

今のところ、おれが翠に気持ちがあることを知っているのは、勘の鋭い花菜だけだ。

つい、気が緩んだ。

「あらら? 響也ってば、情けない顔してるなあ」

どうしたの? 、と花菜に訊かれ、

「あ……いや、別に。キャベツに嫌気がさしただけ」

とおれは嘘を言って、力なく笑った。

でも、花菜にはバレバレだったのだと思う。