午前中いっぱい働いてくれた黒板が、そろそろ疲れ始めている。

朝は目が冴えるような鮮やかなモスグリーン色をしていたのに。

今はくたびれた色をしている。

直射日光を遮るオフホワイト色のカーテンが風になびいた。

パープの音色のようにふわふわと。

開け放たれた窓の外には、深い青空と分厚い入道雲が広がっていた。

右奥には毎日世話になっている野球部の練習グラウンドが見える。

今日もこの青い空の下で、おれはあの場所を目指す。

甲子園球場のマウンドを。

と言っても、南高校はスポーツ学校ではなく、県内でも特に名が知れているような学校でもない。

しいて言うなら、進学校。

それくらいだ。

だから、だ。

だから、相澤先輩達が甲子園大会出場を決めた時は、県内がどよめいたはずだ。

いや、実際にどよめいたのだ。

県立球場も、古ぼけた商店街も。

地元のスポーツ新聞の一面も。

奇跡だ、と。

「うおりゃあー! 肩が唸るぜー」

「やめろよ、健吾! 危ねえぞ」

「何をー! まだまだあ」

そう言って、健吾はますます激しく肩を回した。

びゅうびゅう、音がした。

健吾はおれよりも一回り体格がいい。

見るからに体力が余りに余っている15歳だ。

飯もよく食う。

腕相撲ですら、おれは健吾に勝った試しが無い。

一度も。

野球馬鹿と体力だけが取り柄だな、と担任の先生は健吾を笑う。

いつも。

自慢の強肩をぶんぶん振り回しながら、健吾が言った。

「おれは放課後が待ち遠しいんじゃ」

「分かった! 分かったからやめろ。そのうちぶつけるぞ」

南高校は男女共学だ。

その中でもこの1年B組は昼休みになると、どのクラスよりも喧しいったらない。

男子は部活だのゲーセンだの、専ら趣味の話で盛り上がる。

女子はいくつかの群れになって、この時間を境に顔がけばけばしくなる。

とにもかくにも、騒がしいったらない。

特に、例の彼女が一番。

「ぎゃっ! 痛ってえなあ! 健吾、この美しい顔に傷が付いたら弁償しなさいよ」