肩までの長さで艶々の焦茶色の髪の毛を、さらさらと揺らして。

「あ、ども」

おれも背筋をしゃんと伸ばして、涼子さんに一礼した。

170センチ弱しかないおれの肩下までしかない涼子さんは、小人のように小さく見えた。

目は形のいい切れ長で、奥二重瞼のわりにまつ毛が長く、目鼻立ちがはっきりしていた。

しとやかで内気な、お嬢様のようだ。

「涼子ね、夏井くんが入学して来てからずっとなのよ」

そう言って、若奈さんは清楚に笑った。

「ずっと?」

おれが訊くと、

「そう。夏井くんのファンなのよ、ずっと」

若奈さんは言い、涼子さんに、ねっ、と微笑みかけた。

涼子さんは頬をほんのりと薄紅色に染めて、こくりと頷いた。

何だろう。

やけに後ろが騒がしくて、おれは振り返った。

結衣と明里がおれを睨みながら、ひそひそと耳打ちし合っていた。

2人だけじゃない。

他にもクラスの女子数名が、やけにそわそわしている。

「え! まじですかー? 響也のどこがいいんです?」

健吾が好奇心旺盛に訊いた。

おれもだ。

おれも、全く同じ事を訊きたい。

「まだ1年だし、試合とか出てないっすよ? しかも、背番号貰ってないし。よく響也にファンができたなあ」

へえー、と語尾を丹念に伸ばしに伸ばして、健吾は、物好きもいるもんだな、と言わんばかりにおれを見つめた。

おれの爪先から頭のてっぺんまで、惜しみ無くじろじろと。

「あら、岩渕くん知らないの?」

と若奈さんが笑った。

「え、何がです?」

「夏井くんてけっこう人気あるのよ。特に、3年の女子に」

おれは何だか申し訳ない気持ちになった。

別に極めて背が高いわけではないし、相澤先輩のように特別カッコいいわけでもない。

好きな女には「補欠エース」なんて呼ばれている様だ。

幼顔で、単なる野球馬鹿で。

この進学校を受験した理由も相澤先輩を追い掛けて来ただけで、成績だって中の下で。

そんなおれに、こんな美人のファンがいてくれたなんて。

地球を1周しても実感できそうにない。