相澤先輩と、彼女の藤堂若奈(とうどうわかな)さんは、中学からずっと付き合っているらしく、でも、初々しさがほどよく残されたお似合いの2人だ。

美男美女とはまさにこういう2人を言うのだろう。

激しく似合い過ぎていて、くらくら目眩がした。

背が高い相澤先輩の胸下までしかない小さな若奈さんは、同じ南高校生でストレートの長い黒髪をしている。

日本人形のような、可憐な人だ。

儚さもあり、でも、凜としていて。

「おー、相澤先輩! 若奈さんも! 相変わらず仲いいっすねえ」

頬に溶けた小麦粉をつけたまま健吾が近寄って行くと、若奈さんは口元を小さな手で押さえてクスクスと清楚に笑った。

「よっす、先輩! 若奈ちゃん」

と馴れ馴れしい態度で健吾を押し退けて飛び出したのは、翠だ。

あの球技大会以来、翠は相澤先輩と若奈さんのお気に入りに任命され、廊下で立ち話をするまでの仲になっている。

若奈さんはかなり翠を気に入っているらしく、ちょくちょく1年生のクラスに遊びに来る事もあった。

若奈さんは目を輝かせて翠に微笑んだ。

「翠ちゃん、今日も元気だね」

「まあね! かなり元気よ」

「よ、翠ちゃん。今日は夏井とやり合わないのか?」

と言いながら、相澤先輩は豪快に笑い、

「2人って、夫婦漫才みたいだよね」

と若奈さんが続けて笑った。

おれはわざと呆れた顔をして、今、ワンラウンド終わったとこですよ、と笑った。

「まあね。さっき、包丁で軽く脅してあげたとこさ」

フフン、と翠は横目でおれを見てほくそ笑み、相澤先輩と若奈さんは体をくねらせて爆笑した。

その直後、突然、若奈さんが話を持ち出した。

「あ! そうだ、そうだ、夏井くん」

「何すか?」

若奈さんの後ろからは初めて見掛ける女が、伏し目がちにひょっこりと現れた。

「この子ね、私と同じクラスの岩瀬涼子(いわせりょうこ)」

と若奈さんは言い、彼女の肩をぽんと叩いた。

涼子さんは恥ずかしそうに微笑みながら、お好み焼きの匂いが染み付いたおれに頭を下げた。

「初めまして、夏井くん」