そんな翠の後ろでステンレス製のボウルの中の小麦粉を、シャカシャカと手際よくかき混ぜながら笑ったのは、健吾だ。

青い、エプロンをしている。

日に焼けた小麦色の頬に、溶かれた小麦粉が飛び跳ねたのか、白くペイントされている。

「響也、まじで代われば? これじゃ商品になんねえよ」

健吾は言い、今しがた翠が刻んでいたと思われる、それ、を指先で摘まんでぷらぷらさせている。

「これ、千切りじゃねえよ……乱切りだ」

健吾の指先でぷらぷら揺れるキャベツは、横幅2センチにも及ぶ太いものだった。

野菜炒めにピッタリのサイズである。

おれは呆れ顔で言った。

「翠……お前、料理した事ある? 包丁かしてみな」

「くれてやるわい」

翠から包丁を受け取り、まな板に目を落とした。

可笑しくてたまらなくて、おれは笑った。

「何だよ、これ」

性格も笑い方も、野菜の切り方でさえ、翠は豪快だ。

「どうやったらこんな乱雑な切り方になるんだよ」

「うっさいな! 補欠のくせに。教えてやろうか?」

こうやるんだよ、と翠は言い、再びおれの手から無理やり包丁を奪った。

そして、斧でも降り下ろすかのように、包丁を一気に降り下ろした。

「翠スペシャルサンダー!」

ダアン、と凄まじい音を出して、翠はまな板に包丁を降り下ろした。

「ギャー!」

と雄叫びをあげたのは健吾だった。

丸々と太った一玉のキャベツは見事に真っ二つに切り裂かれ、破片が飛び散った。

その中身は樹齢何百年も経った木の年輪のように、ぐるぐると新鮮な渦を巻いていた。

薄い緑色でふにゃふにゃと波を打った、新鮮で瑞々しい年輪だ。

「まあ、こんなもんかね」

満足感たっぷりに笑う翠に、クラスメイト達はあんぐりして静止したままだ。

開いた口が塞がらない。

まさしくそれだった。

「まじでウケるからあ! 翠ってば最強だし」

その凍てついた空気を秋の空まで押し上げて、結衣は豪快に笑った。

そんな結衣の真横で、明里がお好み焼きを摘まみ食いしながら爆笑している。

包丁は木製のまな板にぐっさりと突き刺さったまま、微動だにしない。