「何が」

「あの、金髪の元気な子」

「はっ? おれが?」

「うん。好きなんでしょ?」

やわらかく微笑みながら花菜は言い、おれはグローブから練習球を足元にぼっとりと落とした。

練習球はコロコロ転がり、おれのスパイクの爪先にぶつかって、停まった。

固まり続けるおれの無防備な背中を、花菜がバシバシと手のひらで叩いた。

けっこう、強い力だ。

でも、そんな小さな紅葉のような手で叩かれても、へとも思わなかったけど。

夕陽が射し込む校舎の日陰を、とんでもない女がてくてくと歩いている。

彼女が日陰を出た瞬間にあの金髪に西日が反射して、それを見たおれは自分の体の異変に気付いた。

鼓動が激しくなって、息苦しくなった。

花菜のお告げ、のせいなんだろうか。

「だってさ、球技大会の時の響也、男っぽい顔してたよ」

マネージャーの目は確かなり、と花菜は言い、どこで知ったのか両手を大きく振り、その名前を叫んだ。

校舎を後にしようとしている、彼女の名前を。

「おーい! 翠ちゃーん! バイバーイ!」

「えっ! お前、何であいつの名前知ってんの? 仲良しだっけ?」

「健吾に聞いた! おーい! 翠ちゃーん」

すると、翠は立ち止まり辺りをキョロキョロ見渡し、グラウンドのおれ達に気付いたようだった。

小さな豆粒のシルエットになって見える翠は、ギャアギャア何かを叫んで手を振り返してきた。

遠いためか鮮明には届いて来ないが、なんとなく予想がついた。

補欠エース、さぼってんじゃないよ。

きっと、そう言ってるに違いない。

あの男勝りな口調で、明るく元気すぎる声で。

「馬鹿じゃねえの。早く帰れってえの」

おれは言い、高鳴る鼓動をひた隠しながら、爪先に転がった練習球を拾い上げた。

「素直じゃないんだね」

花菜はひやかすように言い、おれの脇腹を肘で突いて笑った。

「好きじゃねえよ。あんなへんな女……たぶん」

とおれはぶっきらぼうに言い返し、でも、またフェンス越しに翠の姿を探した。

校舎が茜色に染まっている。

どこの教室だろうか。