ヒロキも陸上部で、彼は短距離走のルーキーなのだとか。

補欠エースのおれなんかとは、格が違う気がする。

「別にそんな気使うなよー、球技大会なんだからさ」

気楽に行こうぜ、と健吾は言い、

「そうそう、負けても恨みっこなしな」

とおれも笑った。

別に勝ち負けなんて、どうでもいいのだ。

甲子園選抜予選大会でなければ、地区予選でもないのだ。

ただ、おれも健吾もまたあの左腕と勝負できる事が嬉しくて、夢中なだけだ。

勝敗なんて、そんなものにはこれっぽっちもこだわっていない。

おれは三塁側ベンチに憧れの眼差しを送り込んだ。

でも、ライバル心剥き出しの眼差しも一緒に。

球技大会なのでユニフォームとまでにはいかないが、そこにはやっぱり憧れの相澤先輩が居た。

ベンチ横で軽く肩慣らし程度に、白球を放っていた。

バックネット裏には野球部員達が一塊になっていて、相澤先輩が振りかぶる度に、おー、と声を揃えていた。

ギャラリーの大半は女できゃあきゃあ黄色い声を出して、相澤先輩ばかりを目で追っていた。

「1年B組と3年D組、整列して下さい」

主審をつとめたのは体育教師の横峯(よこみね)先生だった。

黒いポロシャツの襟をピンと立てていて、まだ三十路前の爽やかな体育会系の男の先生だ。

ホームベースを中心に平行線を描き、両チームは睨み合う。

「では、怪我のないように! 1年B組対3年D組の試合を始めます」

と横峯先生が右手を真っ直ぐ上に掲げ、お願いします、と総勢20名ほどの男女の声が昼前のまだ高い位置にある青空に、高く舞い上がった。

「夏井ー! 相澤先輩に負けんなよ」

バックネット裏から声を掛けてきてくれたのは、本間先輩だった。

「うす!」

「相澤先輩! 響也と健吾なんかこてんぱんにぶっ潰して下さーい」

ギャアギャア、げらげら、と叫んで笑っているのはバックネット裏に集合している、同じ1年の部員達だった。

その中にはちょこんとした花菜の姿も見受けられた。

「よっしゃ、やるぜ、響也」

「おうよ」