優しい西陽が、アルプススタンドの2人を包み込んでいた。


けっこう笑える。


例えば、なんて考える。


おれたちは、けっこう笑えるロミオとジュリエットだ。


汚れたユニフォーム姿の補欠が、ロミオだ。


それで、病衣のドレス姿のジュリエットはフランス製。


あべこべなロミオとジュリエット。


かなり、笑えるかもしれない。


フランス製のジュリエットを、おれはきつく抱きすくめた。


「翠の未来。おれにかけてみないか?」


「え?」


「幸せにします」


翠のミステリアスな瞳に、夕焼け色の涙が滲んでいた。


「約束します。幸せにします」


だから、こんな補欠エースの隣で良ければ、どうか、その笑顔を絶やさないでいて欲しい。


「一生のお願いなんだけど」


あの一球に夏をかけたように。


約束します。


必ず、きみを幸せにします。


だからさ。


「翠の幸せ、おれにかけてくれないか」


無限大の倍にして返すから。


「しょうがないな……あたしの幸せってやつ。補欠にかけたげてもいいよ」


くしゃくしゃの泣き顔で、翠は言った。


「幸せにしなさい」


おれは翠のシャープな頬を両手で包み込んで、額を合わせた。


翠。


いつも強気で勝ち気で、負けず嫌いで、男勝りで。


ツンケンしていて、生意気で。


しらけていて。


すぐ怒るし、すぐすねるし。


言葉使いは悪いし、笑うも泣くも豪快だし。


でも、突然、甘えてきたりして。


「翠」


好きだ。


愛してる。


大好きだ。


愛しい。


でも、そんなんじゃなくて。


そんな簡単な気持ちじゃない。


本当は……


「お前がいとおしくて、たまんねえよ。翠」


翠の唇を、強引に奪った。


翠はそれに答えるように、おれの首に両腕を回してきた。