翠は、うん、と頷いてくふくふ笑いながら、華奢な両手を夕陽にかざした。


その小さな両手に、必勝の御守りを握り締めながら。


普段は無口で無表情だから、男らしくないとか、何考えてるか分からないとか。


そんなふうに周りから言われ続けてきた。


けど、おれだって、抑えがきかないこともある。


男なんだから。


翠の体を右腕だけで抱きかかえ、左手でその細い腕を掴んだ。


「えっ、何よ!」


翠がおどけた顔で見てきた。


何よ、って言われてもなあ。


その横顔があまりにも可愛らしかったから。


誰にも見せたくなくて。


「ちょっと、何すんのさ! 離しなさい」


「できない」


離すなんて、できない。


翠が何かを言おうとしたその唇を、強引に奪った。


抵抗をやめた翠の腕を、少しだけ強く握り直した。


付き合った頃から、ずっと、思っていた。


けど、恥ずかしくていつも言えなかった。


おれの柄じゃないし。


けど、試合後の高揚感がまだ覚めない今なら、言えるような気がした。


今しか言えないかもしれないと思った。


唇を離して、囁いた。


「翠の全部が欲しくなった。誰にも触らせたくなくて」


全部、奪ってしまいたい。


自分がここまで欲にたかられたやつだったとは、思ってもいなかった。


翠は顔を真っ赤にして、うつ向き加減に言った。


「なんか……今日の補欠、強引だから、やだ」


でも、好き。


翠は、そう呟いた。


御守りを握り締める翠の腕を掴みながら、もう一度、その唇を奪った。


口付けて、離して、口付けて、離して。


何度かキスを繰り返していると、突然、翠の体からくにゃりと力が抜けたのが分かった。


唇を離して確かめると、翠は目を潤ませて言った。


「もう、これ以上しないでよ」