「どうだろ」


偶然じゃなくて、運命でもなくて。


おれたちの出逢いは宿命だったんじゃないか、なんて言ったら、翠はどう思うだろうか。


笑われてしまうだろうか。


翠の額。


長い睫毛。


鼻の頭。


頬。


唇。


順番に唇をそっと押し当てた。


その度に、翠はくふくふと笑った。


「今日はキスの嵐」


そう言ってるそばから、翠もおれの唇に口づけを返してきた。


何度そうしたか、分からない。


何度も何度も、唇を重ね合った。


「やっぱ、ご利益あったでしょ」


と翠はおれの首から必死の御守りをそっと外して、両手できゅっと握り締めた。


長い睫毛。


ミステリアスで深みのある、瞳。


ころころ変わる、表情。


きれいな形の、唇。


翠は、手の中の御守りをじっと見つめながら、訊いてきた。


「甲子園球場って、どんなとこ? 広い? 大きい?」


「うん」


頷くおれを見て、翠は目をきらきら輝かせた。


「へえ。この球場よりも?」


「当たり前だろ。比べ物になんねえよ」


そっか、と翠は嬉しそうに笑って、また御守りに視線を落とした。


痩けても、横顔は相変わらずきれいなんだな。


「じゃあさ、その甲子園のマウンドに、補欠エースが立つってわけだ」


補欠なのにね、なんて、翠は本当に楽しそうに笑った。


最初は、クスクス。


最後は、げらげら笑った。


でも、途中でくふくふに変わって、翠は甘ったれた声で言った。


「カッコいいんだろうなあ。甲子園のマウンドに立つ、補欠エース」


そう言って、おれの胸元に、翠は小さな顔をぴたりと張り付けて、身を委ねてきた。


毛布ごと、翠を抱きすくめた。


「じゃあ、翠のために勝ってやる」


なんて、柄にもなくカッコつけてみる。