悔いはなかった。


最高の夏だった。


でも、涙が出た。


悔しくてたまらなかった。


甲子園球場は、簡単には勝たせてはくれなかった。


マウンドで切腹したいくらい、悔しかった。


けど、それ以上に晴れ晴れとした気分でもあった。


一球一球に全力を注ぎ、1日でも長くみんなと野球できた事への感謝が、悔しさを越えた。


嬉しかった。


悔しくて、最高に嬉しかった。


だから、思う存分泣いた。


ダッグアウトを出た時、岸野を筆頭にナインと花菜がおれを抱き締めた。


「夏井、今日までありがとうな」


全員、日に焼けた頬に涙と汗の痕跡を残して、すっきり晴れ渡った笑顔だった。


「夏井が居たから、甲子園に来れた! ありがとうな」


南高校に入って良かったと、心底思った。


こんなおれの左肩を信じ、死に物狂いで守備してくれた、みんな。


みんなのために、と必死に支えてくれた、敏腕マネージャー。


宇宙一の仲間を手に入れた、究極の夏だった。


甲子園に行けた事ももちろんだけど、この仲間を手に入れられた事の方が相当うれしかった。


あの日、甲子園球場のアルプススタンドに、翠の姿があった。


翠は驚異的な復活をみせて、予定より早く退院することができた。


だから、甲子園に応援に来てくれたのだ。


試合を終えた日、午後の飛行機でおれたちは地元に帰ってきた。


高校に到着すると、ものすごい人が待っていてくれた。


暗くなりかけた黄昏時の校舎に掲げられた、大きな垂れ幕。



おかえりなさい


南高ナイン