カン


金属バットが白球を弾く音。


大歓声が渦を巻いて、ステレオをがんがん揺らす。


シートを伝わり、体に響いてくる。


『打ったー! 打球はレフトの頭を越えて行くー! あーっ』


解説者が声を張り上げると、健吾はハンドルをぎゅうっと握り締め、修司がぐっと息を詰まらせる。


2人を見て、おれはククッとこっそり笑った。


やっぱ、こいつら何も変わってねえや。


野球バカは一生なおんねえな。


『桜花大附属、先制! 1回表、工藤の3塁打』


グオン、車がうなる。


興奮した健吾がアクセルを強く踏み込んで、海岸線を車が加速する。


「おっしゃあー!」


修司が大声を上げて、ガッツポーズ。


今年は修司の後輩たちが、甲子園出場を果たした。


やっぱり、桜花は強い。


甲子園の野球中継に耳を傾けながら、おれは流れる景色をウインドウ越しに見つめた。


去年の今頃は、おれも甲子園球場の土を踏んだ。


その時の情景が頭の引き出しから、ぼろぼろとこぼれてきた。


甲子園球場の土は、思っていたより遥かに柔らかかった。


暑くて暑くて、立っているのもしんどいほど、兵庫は暑かった。


甲子園球場のマウンドから見上げたあの空は澄みきった水色で、きれいで、言葉には表せない。


甲子園球場には魔物が棲んでいた。


その噂は、本当だった。


最終回まで同点に持ち越し、白熱したあの試合。


最後の最後で、おれの左腕は力を失った。


地元で6試合を投げ抜き、甲子園球場では179球を投げきった。


試合が終わった時はもう、左腕に感覚はほとんど残っていなかった。


完璧なサヨナラ負けだった。


あの日、甲子園球場のマウンドで見た空を、打球がアーチを描いて伸びて行った。


マウンドに立ち尽くして見ているのがやっとだった。


ああ、終わったんだな。


打球を見て、素直に脱帽した。