アドレス帳を表示させ、スクロールし、さえちゃんにコールした。


『あ、響ちゃん。どうしたの?』


さえちゃんの声は、翠の声に似ているハスキーな低音だ。


やっぱり、少し、胸が締め付けられる。


「ああ。忙しい時にごめん。お初棚に加えて欲しい花があるんだけど」


『ほんと? 嬉しい! 花瓶に余裕開けとくわ』


「うん。じゃあ、後で持ってく。先に墓に寄ってから行くよ」


そう言って、おれから電話を切った。


振り向くと、やっぱり健吾と修司がそこに立っていて、おれを支えるように笑っていた。


健吾が右から肩を抱いてきた。


「そろそろ行くか」


「うん」


「こうやって3人並んだの、久しぶりだよなあ」


左からは修司が、おれの肩を抱いた。


中学の頃は、毎日、こうして暗い通学路を3人で帰ったっけな。


あの頃、おれたちは幼いすぎて、野球にばかり夢中だったから。


誰かを好きになる事が、こんなに幸せなんだと知らなかった。


摘んだトルコギキョウを包装紙で巻いて、おれたちは玄関を出た。


「どうだ! 新車だぜ」


家の前に、びかびか輝くセダンが停めてあった。


健吾の車だ。


「まあ、遠慮はいらん。どんどこ乗れや」


そう言って、健吾は運転席にどんどこ乗り込んだ。


おれと修司は小さく吹き出しながら、後部座席に乗り込んだ。


「発車、オーライ」


健吾の運転で、車は走り出した。


8月13日。


午前10時。


溜め息が出るほどの青空の下、車は海岸線沿いを駆け抜ける。


健吾がオーディオのヴォリュームをぐーんと上げた。


車内にはお盆時期恒例の、甲子園大会の中継が大音量で流れていた。